地球温暖化、気候変動、人間の活動による環境破壊によって、清浄な水や土壌などの資源を簡単に入手できなくなっていることは、世界的な危機と言えます。国連によれば、現在でも世界人口の40%以上が、清潔で安全な飲用水や衛生サービスを十分に享受できずにいます。
人工知能 (AI) の時代を迎えた現在、 「AIは、この水危機を解決するために役立つのか? 」という問いは避けられません。エッジAIの登場により、高品質データと優れたML推論エンジンを使用したリアルタイムのリソース品質モニタリングが可能になりました。AI機能を搭載したセンサとデータ分析により、水質パラメータのリアルタイム・モニタリングと水システムの自動制御が可能になり、状況の変化に応じて水の割り当てと使用量を最適化できます。AIを活用したこのようなシステムによって、運用効率を高め、水の損失を減らし、適応性の高い水管理を推進できます。
水質の分析に使用されるパラメータの1つで、NXP製品が可能にするユース・ケースの1つがpH測定です。pH値を知ることは、水や土壌の状態を評価する上で重要なステップです。液体を扱うほぼすべての業界で、pH測定システムが必要とされています。pH値は水の酸性度またはアルカリ性度を示し、栄養分や重金属などの化学物質の溶解性や生物学的利用能に大きな影響を与えるため、水質分析において重視されます。pHの分析結果から、水質が水生生物の健康と水域全体の環境状態に直接どのような影響を与えているのかについてインサイトを得ることができます。
NXPはpH測定のためのエッジAI対応ソリューションを提供しています。NXPのアナログ・フロントエンド (AFE) によって高速で正確な、信頼性の高いpH測定データが得られ、それを機械学習アルゴリズムを使用したリアルタイムの水質監視に使用することができます。
最先端の水質分析ソリューション
下図は、水のpH分析と導電率分析の両方に対応する回路の概略図です。このアプリケーションは2つの電極で構成されます。
- 第1の電極は、下の図1に示すCE電極です。DACを使用して、複合的な低周波波形(10 Hz~100 Hz)を生成します。通常、この浮動電極を電解液中で駆動するには、DAC出力の後にパワー・アンプが必要になります。電極にバイアスをかけると、電解液中に化学反応または水素活動が発生します
- 溶液中の第2の電極は、図1のRE(リファレンス)電極です。リファレンス電極は安定したリファレンス電圧を持つため、反転入力に向かうバイアス信号をパワー・アンプにフィードバックします
- 下図のWE信号は数マイクロアンペア程度の電流で、CE電極とRE電極の電位差により生じる溶液中の水素活動、つまりイオン移動の結果として生じます。オペアンプをトランスインピーダンス・アンプとして使用することで、この電流を10 mV~100 mVの範囲の電圧に変換し、ADCで処理します
図1. この回路は、水のpH分析と導電率分析の両方に使用されます。 画像をダウンロードして、詳細をご覧ください。
エッジAIを利用した水の導電率解析システム
リアルタイム・モニタリングと予知保全のための高品質データ
pHメーターから得られた信頼性の高い高精度データを使用して機械学習推論エンジンをトレーニングすることで、水質分析と障害分析に最適な精度を達成できます。安定した出力データと診断データがあれば、機械学習アルゴリズムを使用してさまざまな水質分析パラメータを解析するために欠かせない特性を容易に抽出できます。
- 安定性:時間と温度のドリフトは、エッジAIを利用したpHメーターと導電率メーターを設計するうえで非常に重要な要素です。ドリフトが小さく予測可能であれば、教師あり機械学習アルゴリズムによって不明確な未来のインスタンスをより正確に予測または分類できます
- 効果的な分解能とノイズ性能:センサのダイナミック・レンジを最大限に活かして正確に測定するには、特に実験機器では、シグナルチェーンと電源を設計する際に低ノイズと高分解能を考慮する必要があります
- 精度:ラボで使用されるpHメーターであればほとんどの場合、さまざまな環境で正確に測定できるように最低でも+/-0.1 pHの精度が必要です
- 診断とキャリブレーション:電極診断を行うことで、電極の洗浄または校正が必要な時期を把握する柔軟性が得られ、予知保全と高精度な測定を実現できます
次に、pHモニタリングに伴う問題や課題を解決するために新しいNXPアナログ・フロントエンド (AFE) がどのように役立つかについてご紹介します。
NAFE33352は、このようなエッジAIを利用したpHメーター・アプリケーションに求められる高精度の測定要件やデータ要件を満たす、ソフトウェアによる設定が可能なユニバーサル入出力AFEです。UIO-AFEは、高精度の14/16/18ビットDAC、16/24ビットADC、低ドリフトの電圧リファレンス、低オフセットのドリフト・バッファ、高電圧高精度アンプを統合し、EMC対策および配線ミスへの対応のために70 V入力保護回路を備えています。このデバイスには、出力、短絡、断線の検知を目的とした診断回路と保護回路が組み込まれています。アナログ入力ブロックには状態モニタリング用の高度な診断回路があり、機能安全を保証します。電流と電圧の正確なリードバックによって高度な異常検出が可能になり、予知保全に役立ちます。
NAFE33352 AFEが実現する高度な診断機能によるpHモニタリング
安定したADCデータとDACデータによるパターン認識
入力ADCデータ
このアプリケーションに使用されるADCの標準的なデータ・レートは100 ksps前後となります。NAFE33352は下の表に示すように、優れたノイズ性能を備えています。UIO AFEのアナログ入力のノイズ性能は、デバイスの設定(データ・レート、PGA利得、デジタル・フィルタの順序、セトリング・モードの設定)によって決まりますノイズ性能に大きな影響を与える2つ要因が、データ・レートとPGA利得です。データ・レートを下げると、デジタル・フィルタの等価ノイズ帯域幅がデータ・レートに比例して小さくなるため、全体のノイズが比例して減少します。利得を上げると、PGAのノイズがADCのノイズよりも小さくなるため、入力換算ノイズが減少します。デジタル・フィルタの形状もノイズ性能に影響を与えます。これは、デジタル・フィルタの順序によって等価ノイズ帯域幅が小さくなり、ノイズが低下するためです。
表1. ノイズ性能の結果。 画像をダウンロードして、詳細をご覧ください。
出力DACデータ
NAFE33352のDACを使用して、このようなアプリケーションで必要とされる複合的な波形を生成できます。自動DAC波形ジェネレータは、SPIホストからDACコマンドCMD_WGENを送信することでトリガできます。すべての波形パラメータを別々のレジスタにプログラムして、目的の出力波形を得ることができます。
NAFE33352には低ドリフト電圧リファレンスと低オフセット・ドリフト・バッファが統合されているため、温度と時間の両方で安定性が得られます。電圧と電流の入出力TUEドリフトの標準値は、温度に応じて3 ppm/C(最大10 ppm/C)となります。
このように精度と安定性の高いデータが得られるため、機械学習モデルのデータセットを調整しやすく、精度と信頼性を改善できます。機械学習モデルの精度はデータの精度に正比例するため、アルゴリズムによって確実に正しいインターフェースを描画できます。
アナログ機能の効率的な統合
NAFE33352のもう1つの大きな優位点であるアナログ機能の統合は、このようなインダストリアルIoTデバイスの全体的なフォーム・ファクタを縮小するために有効です。NAFE33352には、液体中の電極にバイアスをかけるために必要な複合波形を生成するDACが統合されています。また、この電圧を読み取ってバイアス信号をDACに接続されたパワー・アンプに送信できる電圧検知アンプも統合されています。
電気化学反応によって生成された電流は、ユニバーサルi/pアンプまたは電流検知アンプを使用して読み取ることができるため、トランスインピーダンス・アンプが不要です。
図2:小型インダストリアルIoTデバイスに役立つアナログ機能統合のブロック図。画像をダウンロードして、詳細をご覧ください。
予知保全のための診断とキャリブレーション
NXPのNAFEファミリは、ハードウェア・フォルト・トレラントを強化するために幅広い内部診断機能をサポートしています。pHメーターの場合、pH測定を継続的かつ安定的に実施するために、センサのインテリジェントなリアルタイム診断と管理が必要になります。予知校正は、pHセンサの校正時期と残り有効期間を調べるために役立ちます。
NAFE33352が備える高度な診断機能を使用して、自己状態のモニタリングとシステムレベルの状態モニタリングを実施できます。一般的な断線検出と短絡検出に加えて、入力アンダーレンジ/オーバーレンジ検出、電圧供給範囲モニタリング、サーマル・シャットダウン、システム内のさまざまな異常を通知するグローバル・アラームによる監視に対応します。
さらに、工場出荷時校正係数 (CAL) も用意されています。この係数はNXP工場での校正時に設定され、不揮発性メモリに格納されます。ユーザーはエンドツーエンドで自己校正を実施できます。
ソフトウェアで完全に設定可能なpHメーターをKITNAFE33352-EVBで効率的に設計
現在開発中で、近日リリース予定のKITNAFE33352-EVBによって、NXPのアナログ・フロントエンドであるNAFE33352の迅速な評価が可能になります。このソリューションは、NAFE33352ベース・システムを設計するために必要なすべてのコンポーネントを提示します。すぐに利用できるLPC54S018 MCUXpresso SDKドライバと評価用のGUIにより、開発サイクルをスピードアップできます。
近日中に、ソフトウェアで設定可能な入出力AFE Arduino®シールド・ボードであるNAFE33352-UIOMによって、NAFE33352を評価する機能がさらに拡張される予定です。このシールド・ボードは迅速な評価をサポートするもので、NXPのFRDM-MCX開発ボードとのプラグ・アンド・プレイ互換性を備えています。FRDM-MCXN947は、MCX N94またはN54 MCUの迅速なプロトタイプ作成に役立つコンパクトでスケーラブルな開発ボードです。このNAFE33352-UIOMおよびFRDM-MCXN947ソリューションは、コンパクトなシステム設計のアプローチを提示するという点でユニークなものです。
NAFE33352-UIOMソリューションは、ハードウェアの柔軟性だけにとどまらず、MCUXpresso SDKドライバとリファレンス・アプリケーションを通じてソフトウェアの開発もスピードアップします。MCUXpressoには、高品質の組込みソフトウェア・アプリケーションの開発に必要なすべてのツールが含まれています。詳細な説明付きのすべてのコードをアプリケーション・コード・ハブ (ACH) で入手できます。
インダストリアル・アプリケーションでは長期間の可用性が重要なため、NAFE33352 シリーズはNXP長期製品供給プログラムの対象となっています。
NXP製品で水質を改善
このように、信頼性と正確性の高いデータを出力できる性能、ソフトウェアで設定可能なコンパクトな設計に加え、校正機能と診断機能を統合することで、最も効率性の高い次世代型エッジAIを利用した水質分析設計が可能になります。NXPのNAFEファミリは、この種のエッジAIを利用した設計の開発において重要な役割を果たしています。