搬送ロボットに最適な性能を発揮させ、スムーズな動作と確実な運用を実現するには、高効率で正確なモータ制御が不可欠です。ロボットの自律性が高まり複雑化が進むにつれて、他の処理と並行して複雑なモータ制御を扱える高度なマイクロコントローラが求められています。NXPの新しいMCXマイクロコントローラ製品には、搬送ロボット・システムのモータ制御を最適化する最先端のペリフェラルが搭載されています。
FlexPWMモジュール
MCX AシリーズとNシリーズは、汎用性に優れ、柔軟な設定に対応する拡張パルス幅変調器 (eFlexPWM) モジュールを搭載しています 。このモジュールは正確なモータ制御を実現し、搬送ロボット・アプリケーションの多様なニーズを満たす幅広い機能を備えています。モーターを駆動するための高度な制御機能を備えているだけでなく、eFlexPWMモジュールを使用してスイッチング電源を構築することもできます。
eFlexPWMモジュールの重要な機能の1つが、センター・アライン、エッジ・アライン、非対称のパルス幅変調 (PWM) のサポートです。
搬送ロボットで高効率と高トルク密度を実現するためによく使用されるブラシレスDC (BLDC) モーターでは、センター・アラインPWMによって位相アラインメントを維持し、電流リップルを最小限に抑えます。センター・アラインPWMを利用することで、モーターのスムーズな動作が可能になり、電磁干渉 (EMI) を軽減して、モーター巻線を長寿命化できます。
センター・アラインPWM信号
エッジ・アラインPWMによって、デューティ・サイクルの計算が簡素化され、Hブリッジ回路を容易に制御できます。搬送ロボットでは、双方向のモータ制御に加え、正確な測位と速度調整を行うことを目的としてHブリッジ回路がよく使用されます。FlexPWMモジュールによってHブリッジ回路に必要な制御信号の生成が効率化され、ソフトウェアの複雑さを減らし、ファームウェアの応答性を改善できます。
エッジ・アラインPWM信号
また、FlexPWMモジュールは、多相インバータが採用される搬送ロボット・アプリケーションで価値の高い機能である位相シフトPWMにも対応します。PWM信号を位相シフトすることで、複数のモーターに対する電力供給を同時に最適化できるため、ロボット・アームや多輪プラットフォームなどの複数の自由度を持つシステムでスムーズかつ協調的な動作を実現できます。
FlexPWMモジュールには信頼性の高い故障保護と自動故障解決機構が組み込まれ、安全性と信頼性を確保しています。障害が検出されると、自動的にPWM出力が無効化され、モーター巻線などの傷つきやすい部品の損傷を防ぎます。障害状態が解消されると、障害ステータスが自動的にクリアされて通常の動作が再開されます。そのため、ダウンタイムが最小限に抑えられ、システム全体の堅牢性が高まります。
直交デコーダ (QDC)
搬送ロボットで効果的なクローズド・ループ制御システムを実装するには、正確な測位と速度フィードバックが必要です。MCXマイクロコントローラは、直交エンコーダ信号のデコード処理を簡素化し、信頼性の高い測位と速度測定を実現するために設計された専用ペリフェラルである直交デコーダ (QDC) モジュールを備えています。
QEI
直交エンコーダは、位相が90度ずれた2つの直交信号として位相Aと位相Bを生成します。QDCモジュールはこの2つの信号のシーケンスと周波数を分析し、モーター・シャフトの位置と回転方向を判断します。このモジュールはグリッチ・フィルタやエッジ検出などの高度な機能を備えており、電気的なノイズや信号外乱が存在する場合でも、デコード後の位置データと速度データの完全性と信頼性が保証されます。
QDCモジュールは柔軟なカウンタ初期化機能を備え、カウンタ位置を特定のイベントや条件に合わせることができます。たとえば、エンコーダによって1回転に1回の頻度で生成されるインデックス・パルスの発生時にカウンタを初期化できます。この機能により、ホーミング・ルーチンと絶対測位を容易に実装することができます。また、外部のセンサやスイッチによるホーム信号のアサート時の初期化にも対応しており、搬送ロボット・システムの精密な制御とキャリブレーションを可能にします。
QDCモジュールによって複数の速度測定方法を利用でき、多様なアプリケーションのニーズに対応します。一定の時間間隔で位置変化を監視することでモーター速度を算出できるため、分解能と応答時間のバランスを取ることができます。また、連続する直交エッジ間の経過時間を測定できるため、高速応答や精密制御が必要なアプリケーションに適した高分解能速度測定に対応します。
AND/OR INVERT (AOI) モジュール
MCX AシリーズのAND/OR INVERT (AOI) モジュールは、モータ制御の最適化を目指すうえで、FlexPWMモジュールとQDCモジュールを補完する役割を果たします。このモジュールを使用して、プログラミングが可能な組み合わせブール演算ロジックを作成することで、特定の入力条件に応じてイベント出力を生成できます。MCX Nシリーズのマイクロコントローラには、2個のAOIモジュールと構成可能な双安定回路からなるイベント・ジェネレータ (EVTG) モジュールが搭載されています。
モータ制御において、AOIモジュールはイベント検出とトリガ生成をメイン・プロセッサからオフロードする強力な手段となるため、ファームウェアのオーバーヘッドを削減し、システムの応答性を改善できます。AOIモジュールを構成して位置、速度、障害の状態などのさまざまな入力信号を監視することで、特定のモータ制御動作を開始するカスタム・ハードウェア・トリガを作成でき、ソフトウェアによる常時介入が不要になります。
たとえば、モーターの位置が所定のしきい値に達したときや、速度が一定の範囲内に達したときなど、特定の条件の組み合わせが満たされた場合にトリガ信号を生成するように、AOIモジュールをプログラムすることができます。このトリガを使用して、PWMデューティ・サイクルの自動調整、モーターの整流シーケンスの変更など、任意のモータ制御動作を実行できます。
AOIモジュールのプログラミング可能なロジック回路を活用することで、リアルタイム・イベントに迅速に対応する複雑な制御戦略を実装でき、全体的なパフォーマンスと効率性を高めることができます。AOIモジュールは柔軟性に優れ、各アプリケーションの特定の要件に合わせてカスタマイズしたトリガー条件を作成できるため、ロボット・プラットフォームの固有の特性に応じてモータ制御を最適化できます。
FRDM-MC-LVPMSM拡張ボード
FRDM-MC-LVPMSM拡張ボード
NXPでは、モータ制御アプリケーションの開発とプロトタイプ作成に役立つFRDM-MC-LVPMSM拡張ボードを提供しています。このFRDMボードでハードウェア・リソースとソフトウェア・リソースを組み合わせることで、設計プロセスを迅速化できます。シールド・フォーム・ファクタを使用して設計されているため、NXPのFreedom開発ボード・プラットフォームとシームレスに統合できます。
FRDM-MC-LVPMSM拡張ボードとNXPの永久磁石モータ制御リファレンス・ソフトウェアを組み合わせることで、完結したモータ制御リファレンス・デザインが得られます。このソフトウェア・スイートには、一連の設定済みモータ制御アルゴリズム、ライブラリ、サンプル・プロジェクトが含まれており、特定の搬送ロボット・アプリケーション向けのモータ制御システムを短期間で実装し、最適化することができます。
このシールドに搭載されている低電圧の三相永久磁石同期モータ (PMSM) は、高効率、高トルク密度、精密制御という特長を備えていることから、多くの搬送ロボットで使用されています。このボードには、パワー・ステージ、電流検知回路、エンコーダ・インターフェースなどの必須コンポーネントも搭載され、モータ制御開発のための完結したプラットフォームとなっています。
FRDM-MC-LVPMSMシールドと関連リファレンス・ソフトウェアを活用することで、搬送ロボット向けのモータ制御システムの設計と検証に必要な時間と労力を大幅に削減できます。このボードはFRDM-MCX開発プラットフォームと互換性があり、シームレスな統合が可能なため、開発者は目的の用途に合わせて最適なマイクロコントローラを選択できます。
MCUXpresso開発者エクスペリエンス
MCXを使用した迅速なプロトタイプ作成のために、NXPは低コストのFRDM開発プラットフォームを提供しています。FRDM開発ボードは、標準のフォーム・ファクタとヘッダー、MCU I/Oへの簡単なアクセス、オンボードMCU-Linkデバッガ、USB-Cケーブルを備えています。
また、NXPのGitHubでは、アプリケーション・サンプルも配布しています。これはアプリケーション・コード・ハブ (ACH) ポータルから入手できます。MCUXpresso IDEとMCUXpresso for VS CodeにはACHブラウズ機能が組み込まれているため、利用可能なデモやサンプルを簡単に検索して、デバイス別、アプリケーション・テクノロジ別、ペリフェラル/機能別に絞り込んだ後で、プロジェクトを直接読み込んで利用することができます。
拡張ボード・ハブ (EBH) は、NXPのSDK Builderサイトの拡張機能です。ここでNXPやパートナーが提供するさまざまなアドオン・ボードを探して、選択した評価ボードの機能を拡張できます。このハブでは直感的に使えるフィルタ機能によってボードを簡単に探し、利用可能なサポート・ソフトウェアを見つけることができます。手持ちのボードとさまざまな種類のシールドを組み合わせることで、特定のユース・ケースやアプリケーションを対象として、短期間で評価とプロトタイプ作成を実施できます。
NXPの搬送ロボットのモータ制御向け包括的ソリューション
NXPのMCXマイクロコントローラ製品には、飛躍的な進歩を遂げたモータ制御テクノロジが盛り込まれており、搬送ロボット・アプリケーションにおけるモータ制御の最適化を目的として専用設計された幅広いペリフェラルが搭載されています。FlexPWMモジュールは精密なモータ制御に必要な柔軟性と信頼性を備え、直交デコーダ (QDC) モジュールはクローズド・ループ制御システムに欠かせない正確な測位フィードバックと速度フィードバックを実現します。AND/OR INVERT (AOI) モジュールとイベント・ジェネレータ (EVTG) モジュールにより、プログラミング可能なロジック・レイヤーが追加されるため、開発者はカスタム・ハードウェア・トリガーを作成して、イベント検知をメイン・プロセッサからオフロードできます。