人工知能 (AI) とモノのインターネット (IoT) の融合が進んでいる今、この2つを合わせた「モノの人工知能 (AIoT)」という考え方が、さまざまな市場セグメントの開発者に多くの可能性をもたらしています。コネクティビティが普遍的に利用可能になってきたことから、IoTによって膨大な量のrawデータが収集されるようになるでしょう。データを分析、学習し、それに応じて対応する機能を備えたデバイスは、rawデータの処理に貢献し、データを活用して価値ある体験をもたらすために役立ちます。また、人間が支援しなくてもリアルタイムでデータに対応するAIは、IoTシステムの自律性を高めるためにも役立ちます。
現在でもAIoTは比較的新しいIoT分野ですが、プロセスの最適化、サイバーセキュリティの改善、リアルタイム・インサイトの実現、タスクの自動化に役立てられ、すでに私たちの生活と働き方を変えています。たとえば、AIoTによって私たちの習慣や好みを細かく把握してニーズを予測するシステムは、スマートホームに真のインテリジェント化をもたらします。製造現場では、AIを搭載した機械が予知保全を強化し、ダウンタイムを短縮するとともに、摩耗や亀裂を監視する機能によって、問題発生を予測し、実際に問題が発生する前にメンテナンスを計画することができます。サプライチェーンでは、物流と在庫管理にAIを導入することで、在庫の維持と発注が容易になります。ヘルスケア業界では、介護者がより正確に患者を診断し、治療するためにAIoTが役立っています。公共交通では、AI対応システムが混雑を緩和して車の流れを改善し、企業では、AIoTデバイスがネットワーク・アクティビティを監視してサイバー攻撃を検出し、抑止しています。
始める前に
IoT向けに開発された最新AIモデルも、同じように注目されています。オブジェクトの検出、パターンや異常の識別から、キーワードの認識、自然言語の処理、視覚情報の把握まで、あらゆる用途に対応し、新しい機能も速いペースで導入されています。
このような可能性は非常にエキサイティングですが、開発者は導入を始める前に事前計画を立てる必要があります。ほぼすべてのIoTデバイスで、AIの追加によってデバイスの価値が高まる可能性がありますが、AIoTが本当の意味で役立つのは、時間と労力の軽減という点で、そのユース・ケースに大きく貢献する場合です。
また、AIの追加方法を評価する際には、いくつかの質問を検討する必要があります。つまり、収集したデータの送信に最適な接続プロトコルは何か、そのユース・ケースのセキュリティ要件は何か、システムが環境内の他のデバイスと直接通信できるのか(ヒント:これに対応する場合に、Matterが選択肢に入ります)という質問です。
この質問への回答は、ユース・ケースの内容とデバイスが動作するエコシステムによって大きく変わります。
スマートホーム環境および「住宅のような」環境に対応するMatter
住宅内やその周辺で動作するデバイスの開発に取り組む開発者なら、この質問に答えるのは簡単です。AIoTの基盤として理想的な選択肢は、CSA (Connectivity Standards Alliance) の新しいスマートホーム・コネクティビティであるMatterだからです。Matterは4回目のリリースで、幅広いスマートホーム・デバイス・タイプに対応しました。Matterは、さまざまな民生機器、ネットワーク、プロトコルを統合することを目的に開発されているため、メーカーを問わず認定取得済み製品であれば既存のネットワーク・インフラストラクチャ上でシームレスに相互運用でき、複数のスマートホーム・プラットフォームをまたがっての相互運用も可能です。
Matterは通信プロトコルとして広く普及しているイーサネット、Wi-Fi、Threadに対応し、Bluetooth Low Energyを利用してデバイスをネットワークにオンボーディングできます。さらにMatterは、IPベースの物理ネットワークの安全なオーバーレイを作り出す共通言語を定義します。Matterによって、ネットワーク・ノードの認証と承認、セキュア・ファブリックの作成と管理、ファブリック内で伝達されるメッセージの構造とセマンティクスの定義が行われます。
Matterはスマートホーム専用に開発された標準ではありますが、Matterで定められている概念(標準化されたプロトコル、セキュリティ、セマンティクス)は他の分野にも適用できます。商業ビル、小売業、製造業、ヘルスケア、農業などの分野には類似する要件があり、Matterでサポートされる照明制御やHVAC制御などに関連するデバイスや機能が役立つ可能性があるユース・ケースが数多く存在します。Matterが進化を続け、サポートされるデバイスの種類が増えれば、Matterは住宅以外の産業における幅広いAIoTユース・ケースにその用途を広げることになるでしょう。
エンタープライズ用途におけるMatterの限界
とはいえ現在のMatterには、住宅以外の産業への大規模導入を阻む、根本的な制限がいくつかあります。たとえば、現在のMatter規格では、無線局免許を必要としない周波数帯で動作するローカル・エリア・ネットワーク (LAN) を使用したローカル・アクセスのみがサポートされます。ワイド・エリア・ネットワーク (WAN) を使用して移動体通信をサポートするような導入方法は、現在のMatter規格では対応できません。これには、セルラー通信、衛星通信、低消費電力WAN (LP-WAN) テクノロジ (LoRaWAN など) が含まれます。
また、Matterが想定しているマスマーケットの業界では、消費者が導入を管理し、セキュリティを確保します。エンタープライズ用途ではそれとは規模が異なる場合が多く、導入されるネットワークは専任のIT担当者がネットワーク管理ツールを使用して管理と監視を行う方が適しています。このようなIT部門で使用される管理ツールは、まだMatterと組み合わせて使用することができません。
また、マスマーケットで導入されることから、Matterではデバイス・アテステーションの基盤としてコンプライアンス認証を使用しています。つまりMatterでは、デバイスの導入時に各デバイスの一意のアテステーション証明書をチェックすることで、そのデバイスがCSAの認証を受け、信頼できる製造元で製造されたことを確認します。これは大量生産される民生機器に適したソリューションですが、多段階のサプライ・チェーンが使用され、デバイスに広範なカスタマイズを加えた後で導入することが多いエンタープライズ市場のニーズには合致しません。
Matterを活用したAIoTの開発者向けガイド(および今後の展望)
AIoTでMatterを活用する方法の詳細は、ここでは説明しきれませんが、そのトピックを徹底的に解説した新しいホワイトペーパーをお勧めしたいと思います。
Moor Insights & StrategyでインダストリアルIoTとIoTテクノロジを専門とするアナリスト、Bill Curtis氏は、Matterの構想段階からその進化を追い続けてきました(Bill Curtis氏と私が初めて会ったのは、当社がThread Groupの創設メンバーだった2014年のことでした)。MatterとAIoTが開発者にとって何を意味するのかについて、テクノロジ・エバンジェリストとして独自の見解を示しています。
最新のホワイト・ペーパーである「AIoT: Connecting AI to the Real World」では、コネクティビティがどのようにAIoTを可能にするかについて解説し、AIoT導入時の考慮事項について詳細に検討しています。現時点でMatterが適している分野について説明するとともに、標準化されたプロトコル、セキュリティ、セマンティクスのアプリケーション層に応じたMatterのアプローチが、現在Matterで想定されていない業界にも恩恵をもたらすことを解説しています。
Bill Curtis氏はまた、 NXPのMatterへのアプローチと、開発を簡易化、合理化する多くの手法にも言及しています。NXPはMatter規格の普及に大きく貢献しており、センサからゲートウェイ、ハブまで、幅広いMatterデバイスの開発と導入に必要な電子部品、ソフトウェア、サービスをすべて網羅した、Matter認定プラットフォーム製品をラインナップしています。同氏はNXPのトライラジオ・テクノロジの重要性についても強調しています。これは、Wi-Fi、Bluetooth、Threadをワンチップに統合するテクノロジで、ワイヤレス通信用のハードウェアとソフトウェアの開発を合理化することができます。同氏が述べているように、これはコストの削減、パフォーマンスの向上、ユニバーサルIPベースのデバイス・コネクティビティの実現につながり、製品メーカーはAIoTの拡大に合わせて迅速に開発を進めることができます。
Matterについてもっと詳しく
Bill Curtis氏のその他の調査報告を読むことをお勧めします。以下の資料は、Matterについて詳細に紹介し、スマートホーム市場と民生用電子機器 (CE) 市場におけるその重要性を示すものです。
AIoTやその他の分野でNXPがMatterをどのようにサポートしているかについては、こちらのページでもご紹介しています。