ロボット掃除機は、掃除機をかける手間を省いて室内を清潔に保つことができる利便性から、過去10年ほどで急激に普及しました。ロボット掃除機は空間コンピューティング・アルゴリズムを使用してナビゲーションを行います。これは一般的にSLAM(自己位置推定とマッピングの同時実行)と呼ばれる技術です。従来、SLAMは強力な組込みプロセッサで処理されてきました。
しかし、NXPのクロスオーバ・マイクロコントローラ・ユニット (MCU) の登場によって、住宅や商業施設の中を効率的に移動して清掃するために必要なリアルタイム性能、省電力性、接続性を提供する新しいタイプのデバイスが可能になります。
bObsweepは2011年以来、住宅を清潔に保つために役立つインテリジェント・フロアクリーニング・ロボットを多数開発してきました。PetHair、Dustin、Ultra-Visionなど、多種多様なニーズと価格帯に合わせて複数のモデルを販売しています。
bObsweepのPetHairベース・モデルは、ペットのいる家庭を想定して設計されています。ちり取り、吸い込み、モップがけの機能を組み合わせて、さまざまなタイプの床からゴミやほこりを取り除きます。PetHairをアップグレードしたモデルであるDustinには、ゴミの自動収集、Wi-Fi接続、スマートフォン用アプリ対応、長時間の掃除を可能にする大型バッテリなどの機能が追加されています。bObsweepのロボット掃除機のフラッグシップであるUltra-Visionは、業界最大のゴミ収集スペース、オンボード・カメラ、リアルタイム・コンピュータ・ビジョン処理機能を備え、高さの低い物体を検知したり障害物を回避したりする高度な機能を実現した、業界をリードする最先端モデルです。bObsweepのDustinとUltra-Visionの両モデルは機敏な動作が可能で、わずか6秒で起動し、トレーニング走行不要で清掃中にマッピングを行い、初回でフロア・レイアウトを特定し、非常に高速で環境に対応します。
モダンな住宅で稼働中のbObsweepロボット掃除機。画像提供:bObsweep
クロスオーバMCUがロボット掃除機アプリケーションにもたらすメリット
従来のロボット掃除機はプロセッシング・ワークロードを処理するために、1つまたは複数のディスクリートMCUに加えて多数のCPUを必要としたため、コスト、複雑さ、消費電力が高くなりがちでした。しかし「クロスオーバMCU」と呼ばれる新しいクラスのプロセッサでは、リアルタイム機能を備えたアプリケーション専用チップと、使いやすい従来型MCUを組み合わせることで、ロボット掃除機をサポートします。bObsweepはこの画期的な技術を活用し、複数の掃除機能をシングルチップ・ソリューション(NXP i.MX RT1052クロスオーバMCU)に統合しました。これよってロボット掃除機の費用対効果を高めつつ、高い精度とインテリジェント性を確保できます。
通常、ロボット掃除機のさまざまな機能は専用プロセッサを複数使用することで実現されています。一般的なアーキテクチャは、ローレベルのモータ制御とセンサ制御を担う個別のMCU、ナビゲーションを担うハイレベルのコンピューティングCPU、ディスクリート型の無線ラジオ・チップなどで構成されています。しかし、複数のチップにワークロードが分散されるため、コストと複雑さが増え、障害が発生する可能性が増加します。マルチチップ・システムも、PCB上のスペースを多く占有するため、設計の柔軟性を限定することにつながります。
bObsweepは優れたユーザー・エクスペリエンスと最高の価値を顧客に提供するために、異なるアプローチで製品のハードウェアとソフトウェアを設計しました。
先進的なプロセッシングと高効率によって、アプリケーションを改善します。i.MX RT1052クロスオーバMCUの詳細については、こちらをご覧ください。
用途に適したチップ
NXPのクロスオーバMCUシリーズの1つであるi.MX RT1052は、リアルタイム機能を備えたアプリケーション・プロセッサの高性能と集積性に、従来型MCUの使いやすさを加えています。このMCUは最大600 MHzで動作するArm® Cortex®-M7を搭載し、モータ制御、センサ・フュージョン、ナビゲーション・プランニングなどのローレベル・リアルタイム・タスクを処理する十分なコンピューティング・パワーを備えています。NXPのi.MX RT1050クロスオーバMCUは、CMOSセンサの制御に使用されるCSIインターフェースも備え、さらに最大1 MBの密結合メモリを搭載しているためプロセッシング全体をオンボードに含めることができます。
コネクティビティとインターフェース
ロボット掃除機ではさまざまなインターフェースを使用して、センサ、アクチュエータ、ワイヤレス・モジュールなどの周辺部品を接続します。i.MX RT1052はこのような部品に対応するために、次のような幅広いI/Oオプションを統合しています。
- センサ・インターフェース用の複数のI²Cポート、SPIポート、UARTポート
- ブラシレスDCモータ制御インターフェース、オーディオ・インターフェース、ディスプレイ・インターフェース用のPWMチャネル(最大12個)
- 外付けモジュール用のUSB/CAN接続
高度なグラフィックス機能とコンピュータ・ビジョン
Ultra-Visionは、現時点でbObsweepの最も高機能でインテリジェントなロボット掃除機であり、清掃機能と障害物回避の新たな基準を打ち立てた製品です。ビジュアル・オブジェクト検出などの先進機能を備えたUltra-Visionでも、1つのi.MX RT1052チップのみですべてのプロセッシング・タスクを処理しています。i.MX RT1052によって、コンパクトさと費用対効果に優れたプロセッサ・アーキテクチャを維持しながら、市場の他のどのロボット掃除機よりも速く障害物を認識して回避することができます。これこそ、bObsweepの先進機能を備えたハイエンド製品が非常に手頃な価格を維持できている理由です。
パラレル8/16ビット・カメラ・インターフェースにより、最大720pの解像度と60 fpsのリフレッシュ・レートでRawベイヤー画像センサを直接接続できます。i.MX RT1050クロスオーバMCUは、ピクセル・プロセッシング・パイプライン (PXP) ハードウェアを内蔵することで、色空間の変換、スケーリング、アルファ・ブレンディング、ローテーションなどの画像前処理タスクの負荷を軽減しています。PXPによって、CPUの介入なしにオンザフライで画像を操作できます。
bObsweepはカメラ・インターフェースとPXPを組み合わせることで、ロボット掃除機にコンピュータ・ビジョンを低コストで導入しています。外部のビジョン・プロセッサやGPUを使用せずに、カメラのフィードを即座に処理し、ロボットの進路上にあるオブジェクトを検出、識別します。
パワーマネジメントと効率性
ロボット掃除機のようなバッテリ駆動デバイスには、充電後の作動時間を最大化するために最大限の効率性が要求されます。i.MX RT1052は、低消費電力アプリケーションに適しています。
このチップには高効率DC-DCコンバータを備えた統合パワーマネージメントICが搭載されており、これによってMCUと外部部品に電力を供給するため、外付けパワーマネージメント回路の必要性が低くなっています。低消費電力モードでは、低負荷時にCPUクロック速度とコア電圧を抑制できます。フル・ディープスリープ・モードでは、SRAMコンテンツとGPIO状態を維持しながら、消費電流量をわずか4.6 mAに低減できます。また、i.MX RT1052 MCUはペリフェラル向けの柔軟なクロック・ゲーティング機能を備えているため、未使用のモジュールを自動的に遮断し、リークを排除することができます。
開発プラットフォーム
NXPは多大な努力によって、包括的なソフトウェアとツール・エコシステムを用意し、i.MX RTの開発を簡素化してきました。MCUXpresso SDKには、VSコード用のMCUXpress、MCUXpresso IDE、Keil MDK、IAR Embedded Workbenchに対応するプロジェクト・ファイルが含まれています。i.MX RT1050クロスオーバMCUにおけるFreeRTOS™のサポートも利用できます。
さらに、i.MX RTシリーズはZephyrプロジェクトでもサポートされており、開発者は柔軟なライセンス・モデルを利用して、すべての機能を備え、広くテストされた安全なRTOSを入手できます。Zephyrのモジュール型アーキテクチャと充実したデバイス・ドライバ・インフラにより、ロボット掃除機アプリケーションの特定のニーズに合わせて、OSを簡単に調整できます。
ピン・マルチプレクス、クロック・ツリー、電源シーケンスを設定するための設定ツールが用意されているため、製品開発時には設定作業のほとんどが不要になります。
高い競争力を確保
bObsweepはNXPのi.MX RT1050クロスオーバMCUをプラットフォームの基盤として、性能と効率性に優れ、高いインテリジェント性を備えたロボット製品ファミリを開発しました。高速制御、リアルタイム動作、先進的なプロセッシング能力、高い信頼性のコネクティビティを実現するアーキテクチャを備えたi.MX RT1052は、ロボット掃除機の頭脳として理想的な製品です。