IoTの普及拡大と同時に、もう1つの大規模な移行が進んでいます。インテリジェンスは、クラウドから機械学習 (ML) に対応するエッジ・デバイスへとシフトしています。エッジでは、クラウド・ベースのAIシステムと比べて、より低レイテンシで、セキュリティとユーザーのプライバシーをより強固に保護しながら、センサのデータ・ストリームをローカルで処理できます。開発者は、エッジ・データを実用的なエッジ・インテリジェンスに変換するために、マルチコアのパフォーマンスとMLタスク実行のための内蔵アクセラレータを備えつつ、電力消費を最小限に抑えてエネルギー効率の高いシステム設計を実現できる、新しいクラスの低消費電力マイクロコントローラ (MCU) を求めています。
エッジ・インテリジェンスへと向かうMCUの将来を見据え、NXPはこのたびMCXポートフォリオを発表しました。このポートフォリオは、スケーラブルなパフォーマンス、並列処理、セキュリティ、電力効率の向上を実現するMCUプラットフォームであり、IoT、エッジML、産業用など多岐にわたるユース・ケース向けに最適化された豊富なペリフェラル・セットを統合しています。MCXポートフォリオは、NXPのLPCとKinetisの両方のMCUファミリを一元化した後継製品であり、スマート・コネクテッド・デバイス向けの次世代の汎用MCUに新たな定義を与えます。
MCX製品の第1弾となるMCX Nアドバンスド・シリーズは、セキュアなインテリジェント・エッジ・アプリケーション向けに設計されています。Nシリーズは、最近発表されたMCX N94xおよびMCX N54x MCUファミリで構成されており、高効率のマルチコア・アーキテクチャ、統合されたEdgeLock®セキュア・サブシステム、リアルタイム推論を実現する専用のオンチップ・ニューラル・プロセッシング・ユニット (NPU) を搭載しています。MCX N94xファミリは、産業アプリケーション向けに設計されており、幅広いアナログ・ペリフェラルやモータ制御ペリフェラルを備えています。MCX N54xファミリは、民生機器およびIoTアプリケーションをターゲットとしており、PHY内蔵の高速USBからセキュア・デジタル (SD) インターフェースやスマートカード・インターフェースに及ぶペリフェラルを備えています。
150 MHzのMCUの能力とは
低消費電力の150 MHz MCUでマルチタスクを処理したり、高度なニューラル・ネットワーキングや機械学習に対応したりするのは、極めて困難なことに思われるかもしれません。しかしながら、MCX N94xとMCX N54xデバイスは並みのMCUではありません。MCX Nシリーズはマルチコア設計とペリフェラルの統合により、驚異的な能力を備えています。
MCX N94xおよびMCX N54xは、最大150 MHzで動作する高性能Arm® Cortex®-M33デュアル・コアを搭載するほか、オプションのフルECC RAMを備えた2 MBフラッシュ、smart DMA、DSPコプロセッサ、セキュア・サブシステム、NXP独自のNPUが内蔵されています。開発者は、MCUのクロック周波数や消費電力を増大させることなく、これらのコアとアクセラレータを任意に組み合わせて特定のタスクに使用することができます。
MCX N94xのブロック図 ブロック図をダウンロードすると、拡大図がご覧いただけます。
MCX NシリーズのMCUは、オンチップ・アクセラレータにより、システムをセキュアに保ちながら、複数の複雑なタスクを低消費電力で極めて効率的に処理することが可能です。マルチコア設計により、アナログとデジタルのペリフェラルにワークロードをスマートかつ効率的に分散させることで、システム・パフォーマンスの向上と消費電力の低減を実現します。そのため、MCUの消費電流は、動作時電流で45 μA/MHz未満、パワーダウン・モード(リアルタイム・クロック (RTC) が有効、8 KB SRAMを保持)では2.5 μA未満、ディープ・パワーダウン・モード(RTCがアクティブ、8 KB SRAM)では1 μA未満まで低減されます。
デュアルコア・アーキテクチャは、フル機能を備えたCortex-M33コアと制御機能を管理するために効率化されたM33コアで構成されており、開発者はアプリケーションを並列実行させることも、必要に応じて個々のコアをオフにして総消費電力を削減することもできます。例えば、IoTデバイスのセキュアOTA (Over-The-Air) アップデート時には、メインのM33コアでシステム・セキュリティを確保しながら、効率化された2つ目のコアで制御機能を実行させることができます。
MCX NシリーズのMCUには、NXPで初めて、エッジでの高性能、低消費電力のインテリジェンスを可能にするためにNXPが独自開発したNPUが搭載されています。このオンチップNPUは、CPUコア単体を使用した場合と比べてMLのスループットを最大30倍高速化します。
NPUによる高速化
MCUトップ・クラスのこのMLパフォーマンスは、リソースや電力に制約のあるエッジ・デバイス向けのTinyMLの能力を増強します。それは、高度なディープラーニング・モデルの導入、アクセス制御のための顔認識や音声認識の追加、ホーム・セキュリティ・システム用のバッテリー駆動ガラス破損検出器の作成、モータ制御の予知保全用の振動センサの開発、バイオ・センサを搭載したスマート・ウェアラブル・デバイスの設計など、無限の可能性を秘めています。
柔軟かつセキュアな設計
MCX Nシリーズのペリフェラルの柔軟性は、開発者にとって宝箱のようなものです。高分解能のミックスドシグナル・アナログ・ペリフェラルは、高い自律性で動作し、CPUの介入を最小限に抑え、電力を削減するように設計されています。例えば、ADCには、データを継続的に収集し、保存されたデータをローカルで平均化するインテリジェンスが内蔵されています。MCUに備わる2つの16ビットADCは、2つのシングルエンド入力ADC(事実上4つのADCとして機能)としても、1つの差動入力ADCとしても使用可能です。
インダストリアル水準の通信ペリフェラルには、イーサネット、CAN-FD、BLDC/PMSMモータ制御のサポート、High-speedおよびFull-speed USB、統合センサ・インターフェース(MIPI-I3C、I2C、UART、およびSPI)が含まれます。柔軟性を高めるために、NXPのLP FlexcommインターフェースではSPI、UART、I2Cを含む10種類のシリアル・ペリフェラルを任意に組み合わせることができます。
MCX NシリーズのMCUは、NXPのセキュア・バイ・デザインのアプローチを採用し、不変の信頼の基点によるセキュア・ブート、ハードウェア・アクセラレーションによる暗号化、アクティブおよびパッシブの侵入検知、電圧および温度の改ざん検知を備えたEdgeLock®セキュア・サブシステムを搭載しています。クラス最高を誇るこのセキュリティ・アーキテクチャは、現場でのアップデート、オンライン取引、ODM企業の過剰生産を防止するリモート管理などをサポートします。
MCUXpressoとeIQ®ソフトウェアの使用を開始する
MCX NシリーズのMCUは、広く利用されているNXPのMCUXpressoソフトウェア・スイートによってサポートされており、システムの開発を簡易化および迅速化します。MCUXpressoスイートには、シンプルなデバイス設定やセキュア・プログラミングのためのツールも含まれています。開発者は、フル機能を備えたMCUXpresso IDを使用することも、IARやKeilのIDEを使用することもできます。NXPは、豊富なサンプルを含むドライバとミドルウェアを提供するとともに、RTOSに関するさまざまな選択肢をサポートしています。さらに、それらはNXPのパートナー・エコシステムによる多様な互換ミドルウェアで補完されており、幅広いアプリケーションの迅速な開発を可能にします。また、NXPのeIQ® MLソフトウェア開発環境では、統合NPUで動作するMLモデルをトレーニングおよびサポートするための使いやすいツールも提供されています。
MCX Nでつながる
MCX Nは、電力に制約のある高度なエッジML設計の新たな可能性を拓きます。NXPのMCX N94xおよびMCX N54 MCUの詳細をご覧ください。