現代的な生活を可能にする「モノ」を製造している工場では、生産機械、センサ、モーション制御、プログラマブル・ロジック・コントローラ (PLC)、エンタープライズ・ソフトウェアが相互に連携して動作しています。
自動車製造から医薬品製造まで、私たちはエレクトロニクスとソフトウェアが複雑に連携するこのシステムを総合的に利用して、生活の質を向上させるために必要な品々を高い信頼性で製造しています。信頼性の高いインダストリアル4.0システムを構築するには、設計プロセスの開始時点から接続性と相互運用性について検討しておく必要があります。
セキュリティ性、信頼性、相互運用性、耐久性は、コネクティビティに関する複雑な問題を解決するための重要な要素です。インダストリー4.0では、単なるrawデータの送信にとどまらない機能が必要です。情報の力を利用して、複雑にからみ合う構成要素を対処可能な情報へと変換することで、本番システムの効率性を最高の状態に維持できます。
rawデータと情報の違いを認識することが重要です。運用上の意思決定に必要な情報は、多くの場合、複数のrawデータ・ソースから収集されます。モデリング情報は、インダストリー4.0の重要な部分です。相互運用可能なインダストリー4.0システムを構築するためのツールが、OPC統合アーキテクチャ (UA) です。
OPA UAの基礎
OPC UAは、インダストリアル・コンポーネントの相互運用性を実現するための情報アーキテクチャです。OPC UAはオープンな情報交換を長いライフタイムで維持することを目的として、インダストリアル分野で蓄積された豊富な経験を活かし、いくつかの重要な柱に基づいて構築されました。
情報モデリング、相互運用性、アクセス
多くの通信規格はrawデータの移動に関することを中心としています。OPC UAでは、情報の伝達方法を標準化します。OPC UAの出発点となるのは、基本的なデータ型の基盤です。このようなデータ型を組み合わせて任意の情報構造を作成することで、あらゆる種類のセンサ、生産機械、プロセスをモデル化できます。
OPC UAには、インダストリアル分野で一般的な多くの生産機械やプロセスに対応する標準化モデルが用意されています。たとえば、CNCシステムはOPC 40502-1を使用してモデル化できます。 つまり、標準化された方法でソフトウェアからOPC UA準拠のCNCマシンの状態にアクセスできるため、システム統合が簡素化されます。
ベンダーは標準情報モデルに加えて、拡張機能を追加することで自社の機器固有の機能を有効にすることができます。OPC UAでは、情報にアクセスするためのメカニズムが標準化されています。ベンダー固有の情報は、標準化されたOPC UAアクセス・メカニズムを利用して検出、照会できます。さらにOPC UAでは、対象機器でタスクやドメイン固有APIを実行することもできます。
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OPC UAシステムの情報にアクセスするための主な手法として、クライアント/サーバとパブリッシュ/サブスクライブ (Pub-Sub) の2種類があります。
OPA UAが初めてリリースされた2008年当初は、クライアント/サーバ型のパラダイムが情報交換の主要モデルでした。これは、OPC UAの基になった先行規格の影響でした。クライアント/サーバ・モデルは、TCPトランスポートとHTTP/SOAPが基になっています。
OPC UAクライアント/サーバ・モデルと要求応答 ブロック図をダウンロードすると、拡大図がご覧いただけます。
クライアント/サーバ・モデルは、多くのユースケースで適切に機能します。クライアントは、必要としている情報アクセスを自ら行う必要があります。複数のクライアントが1台のOPC UAサーバから同じデータを得る必要がある場合、各クライアントが別々にデータを要求する必要があります。この手法の場合、ネットワーク・トラフィックとシステムの複雑性が大幅に増加する恐れがあります。
このようなユースケースとアクセス・パターンの問題に対処するために、OPC foundationによってパブリッシュ/サブスクライブ (Pub-Sub) パターンが仕様に追加されました。Pub-Subパターンの場合、情報を生成するデバイスが「ブローカー」に対してパブリッシュを実行できます。アクセスを必要とするデバイスは「トピック」からこのブローカーを参照し、特定の情報を取得することができます。
OPC UA Pub-Subアクセス・パターン ブロック図をダウンロードすると、拡大図がご覧いただけます。
ブローカーとして使用できるのは、AMPQ (ISO/IEC 19464:2014) や一般的なMQTT (ISO/IEC 20922:2016) メッセージング・システムなど、いくつかのオープン・メッセージ指向のミドルウェア・ソフトウェアです。
ここで重要な点は、エンドポイントが標準化された方法で情報を処理できるように情報構造をOPC UAが定義できることです。Pub-Subアプローチの利点は、多くのデバイスが同じ情報にアクセスする必要がある場合に、システムの複雑さを軽減できることです。
OPC UAでは、情報交換用のブローカーレス・モデルも定義されています。このモデルでは、追加のソフトウェア/ミドルウェアは必要ありません。
OPC UAのセキュリティ
通常、OPC UAではTCP/IPトランスポート(TCPとUDPの両方)を使用して情報を移動します。データのセキュリティは、標準に準拠した方法で確保されます。クライアントとサーバ間の(または情報ブローカーとの)TCPセッションでは、セッション暗号化が使用されます。これにはX.509証明書を含めることができるため、情報をやり取りする双方が認証の有効性を検証できます。受信者が要求者の身元を確認できるよう、メッセージに署名を加えることができます。OPC UAには、アクセスのログを記録して監査証跡を残すなどの監査機能が用意されています。
プラットフォームとランタイムの独立性
OPC UAはTCP/IPとイーサネットを基盤としているため、イーサネット機能を持つほぼすべてのハードウェアをOPC UAシステムに追加できます。i.MX 93などのMPUでLinuxを使用して、i.MX RT1180などのi.MX RTクロスオーバーMCUでRTOSを使用して、あるいはMCX N947などのマイクロコントローラでのベアメタルで、クライアント機能またはサーバ機能を実行することができます。Linuxのような高レベルの強力なオペレーティング・システムをソリューションに含めることができます。初めてソフトウェアを実装する際には、オープンソースのopen62541やS2OPCスタックが適しているかもしれません。開発に役立つ商用サービスも多数利用することができます。
OPC UAおよびTime Sensitive Networking (TSN) とのデターミニスティック通信
多くのインダストリアル・アプリケーションでは、情報の伝達と重要な制御のためにデターミニスティックな時間調整が必要です。デターミニスティック性とリアルタイム性の要件を満たす方法の1つが、TSNイーサネット・テクノロジです。
TSNとIEEE1588v2 Precision Time Protocolを組み合わせて使用し、ノードが競合することなくネットワーク上で通信できる固定期間を定義することで、デターミニスティックな挙動が可能になります。
TSNはOPC UAとは別に開発された技術ですが、OPC UAは任意のイーサネット・ネットワークで相互運用できます。OPC UAの進化に伴い、クロスレイヤ制御機能が追加されたため、優先度の高い情報を優先的に扱えるようになりました。OPC UAとTSNを組み合わせることで、相互運用可能なデターミニスティック・システムを実現できます。
i.MX RT1180などのNXPデバイスでは、ギガビット対応TSNがハードウェア・サポートされています。
i.MX RT1180はOPC UAノード向けソリューションとして使用できます。i.MX RT1180は5 Gbポートまで最新のTSN規格に対応しており、インダストリー4.0ソリューションにおけるリアルタイム制御を実現できます。
NXP製品を使用したOPC UAソリューションの導入
OPC UAは、インダストリー4.0アプリケーションに対応する、拡張性、オープン性、安全性に優れた情報アーキテクチャです。エンジニアはOPC UAを利用することで、複雑な生産シナリオに「プラグイン」できる自動化ソリューションを設計し、データ通信を簡素化できます。OPC UAはオープンな規格であるため、耐久性の高い産業用機器の長いライフサイクルに対応できる機器を設計できます。
NXPでは、OPC UAソリューションの導入に対応する製品ラインナップをいくつかご用意しています。
- イーサネット対応マイクロコントローラ(MCX N947など):ベアメタルで使用するか、FreeRTOSなどのシンプルなRTOSを実行します
- TSN対応クロスオーバーMCU(i.MX RT1180など):Zephyrなど、より多くの機能を備えたRTOSを実行します
- インダストリアル・アプリケーション・プロセッサ(Layerscape LS1028Aなど):Linuxを実行します
OPC UA向けの商用ソフトウェア製品や、プラットフォームに依存しないオープンソースのソリューションもあります。