技術的な専門知識に詳しくない人でも日々当たり前のようにコネクテッド・デバイスを選択し、インストールし、使用しているような民生用電子機器の世界では、消費者と開発者の双方にとって聞きたい3単語の言葉があります。それは「It just works」、すなわち「ちゃんと動く」です。
消費者にとっての「ちゃんと動く」とは、製品を購入する前に懸念される技術的な問題がより少ないことを意味します。消費者は、箱に記載されたとおりの機能を簡単に使い始めることができると考え、OTAアップデートによりデバイスが製品寿命全体を通じてシームレスに機能すると想定しています。また消費者は、最初のインストールが単純明快であること、後々新しいデバイスをホーム・ネットワークに追加するときにも特に驚きや混乱は生じないことを期待しています。
一方で、開発者にとっての「ちゃんと動く」は、より一層重要な意味を含んでいます。この言葉は、相互運用性に関する問題の解決に費やす時間が減り、差別化に集中できることを示しているからです。また、デバイスのインストールや使用が簡単になることで、カスタマー・サービスへの問い合わせ件数の減少にもつながります。
「ちゃんと動く」ようにすることは、CSA (Connectivity Standards Alliance) が策定したスマートホームにおける相互運用性の規格であるMatter の理念そのものです。独自のプロトコルや規格の乱立がスマートホーム市場の発展を妨げる要因となっている状況で、Matterの策定者たちは異なるアプローチを取りました。統一された接続規格の策定に際して、市場のユース・ケースに対応するために、既に広く導入されているネットワーク、プロトコル、セキュリティ、デバイス通信などの規格を採用しました。
それにより誕生したMatterの仕様は、開発者が「ちゃんと動く」民生用電子機器 (CE) デバイスを容易に開発できるようにし、また技術に精通していなくても誰もが家庭でスマート・コネクテッド・デバイスを使うメリットを享受できるようにする、新しいアプローチです。
急速な導入の拡大
Matterは急速に普及しています。CEメーカーは、この新しい規格について、「ちゃんと動く」を可能にする能力だけではなく、既存のものを活用できるという利点にも魅力を感じています。Matter対応デバイスは、何億もの家庭で既に利用されているWi-FiやThreadのエコシステムとの相互運用性を備えています。Matterによって、コネクティビティの問題が解消し、デバイスが既存のネットワークで動作するかを考慮する必要がなくなるため、CEメーカーは容易な接続性の先にある新しい分野に注力できるようになります。
既に多くのCEメーカーがこの新しい規格を導入しており、驚異的な速さでMatter認定製品を発売しています。この新しい規格が登場してからわずか1年余りで、既に1200を超えるMatter認定製品が存在しています。
自律型の新たな時代を実現
同時に、人工知能 (AI) を搭載した民生機器の増加に伴い、Matterの人気はますます高まっています。MatterとAIの組み合わせは、実に画期的な組み合わせです。開発者は、Matterを活用してインストールや構成を簡易化したり、相互運用可能なスマートホーム・ネットワークに統合したりできるとともに、AIを活用して生活環境の制御や監視のためのより有益なオプションを追加することができます。
MatterとエッジAIを基盤とするデバイスは自律性が高く、人間がほとんど介入することなく、かつ高度なセキュリティをもって、より複雑なタスクを実行可能です。照明、冷暖房空調設備 (HVAC)、セキュリティ、エンターテイメントなどの領域を個々に管理・制御する代わりに、MatterとAIを用いて構築された自律型デバイスを使用することで、家全体を管理・制御することができます。
Matter認証済みのシステムにAIを搭載する開発者が増えるにつれて、消費者はさらにダイナミックで応答性に優れたスマートホーム環境を体験できるようになります。住環境が居住者の生活の背後で個々の生活パターンを学習し、個々のニーズを予測するようになり、日々の暮らしがより便利で安全になるとともに、エネルギー効率も向上します。
開発者向けガイド
私たちは、Matterを活用して自律型の時代に対応しようとするCEデバイス開発者を支援するために、Moor Insights & StrategyのインダストリアルIoTおよびIoTテクノロジ専門アナリストであるBill Curtis氏に協力を仰ぎました。彼は早期よりMatterの進化に着目し続けており、テクニカル・エバンジェリストとして、開発者にとってのMatterの役割について独自の視点を提示しています。
また既に、主に開発者に向けたMatterに関する2本の論文「Matter – Making Smart Homes Smarter」と「Matter – Making Smart Homes More Secure」を発表しています。「Matter for CE Product Manufacturers」という最新の論文では、CE開発者に対し、AIなどの最新機能を利用して自律的な動作を可能にする、実用的で収益性の高いスマートホーム製品を開発するためのMatterの活用方法について、具体的なアドバイスを提供しています。
この最新の論文は、開発者を中心にスマートホーム業界の誰にとっても読む価値があると私たちは考えています。なぜなら、CEの観点からMatterに焦点を当て、CEの開発のための明確なロードマップを示した最初の数少ない論文の1つだからです。
この論文では、最初にMatterのアーキテクチャをトップダウンで見ていき、コネクティビティが標準化された場合にCEメーカーはどのように付加価値を高めることができるかに焦点を当てています。次に、Matterによってスマートホーム市場でどのような変革が期待できるのかを考察し、自律化に向けた適切なCE製品戦略について提案しています。
さらに、CEメーカーが差別化された機能を備えた規格ベースの製品を迅速に開発するために役立つ、特定のプラットフォームについて提案しています。また、Matter対応製品の製造に関する最良事例をいくつか挙げて、プラットフォーム・サプライヤが民生用製品のサプライ・チェーンを合理化するための方法を示した後、Matterベースの製品への移行戦略に関する一般的な質問に対応することで総括しています。
CE製品向けMatterに対するNXPのアプローチ
Billは過去の論文で、NXPはMatterにとって「適切なすべての要素」を手にしていると述べています。彼はその中で、NXPはMatterのセキュリティ仕様の策定に協力しただけではなく、「お客様がセキュアな製品を構築および実装するために必要なシリコン、ソフトウェア、リファレンス・デザイン、およびサービスのすべてを備えたMatter認証済みプラットフォームの提供を最初に開始した半導体企業のうちの一社」であるという事実を指摘しています。
この最新の論文はCEメーカーを念頭に置いて執筆されており、CE開発者が差別化された製品を迅速に実現するために役立つ、NXPのMatter対応製品ポートフォリオの特定のプラットフォームと開発ソリューションに焦点を当てています。コントローラ、ブリッジ、ルーターなどのインフラストラクチャ・デバイスを実現するプラットフォームや、バッテリ駆動の監視用小型デバイスから、コネクティビティと帯域幅に関してさらに高度な機能で厳しい要求を満たすMCU/MPUベースのデバイスまで、あらゆるエンド・ノードを実現するプラットフォームについて論じています。
私たちは、Matterは次世代のスマートホームのユース・ケースにとって不可欠であるという点で彼と見解が一致しており、MatterはよりスマートでAI対応の自律性に優れたアプリケーションの開発を容易にすることでカスタマー・バリューを向上させる、という彼の主張は正しいと考えています。また、NXPのMatterに対するこれまでの深い取り組みと、AI対応の高度なエッジ・アプリケーションの開発をより実用的にする既製品としてのMatter対応プラットフォームの構築がBillにより認められていることを、大変光栄に思っています。
Matterに関するその他のBillの論文
前述のとおり、CEメーカー向けMatterに関するBillの最新の論文は、Matterに関する一連の論文の3本目にあたるものであり、昨年にはセキュリティと自律性に焦点を当てた以下の2本の論文が執筆されています。
今後の論文
2024年にはBillによるさらなる論文が執筆されることが期待されます。Matterに関する彼の論文が公開され次第お知らせします。それまでの間、既に公表されている3本すべての論文をお読みいただくことをお勧めします。また、以下にアクセスして、NXPがMatterをどのようにサポートしているかをさらに詳しくご覧ください。