NXPのMR-VMU-RT1176は、コンパクトなオールインワン型の車両管理ユニット (VMU) です。デュアルコアArm® Cortex®-M7/M4が組み込まれたi.MX RT1176クロスオーバーMCUが搭載され、統合センサ・スイートと豊富なコネクティビティ・オプションが用意されており、次世代システムの構築に取り組むエンジニアの開発作業を容易にします。
モバイル・ロボット設計の課題
モバイル・ロボットは非常に複雑で設計が難しいことが知られ、リアルタイム制御、センサ・フュージョン、高速通信を1つのシステム内でバランスよく成立させる必要があります。従来の設計では、マイクロコントローラ (MCU)、慣性計測ユニット (IMU)、全地球衛星測位システム (GNSS) モジュール、ネットワーク・インターフェースなど、複数のディスクリート・コンポーネントを統合する必要があり、アーキテクチャが複雑化して長期の開発サイクルが必要になっていました。
モバイル・ロボット・システムの設計では、いくつかの課題に取り組む必要があります。最も困難な要素の1つが、リアルタイム処理です。制御ループ、センサ・フュージョン、自律的意思決定のためには、低レイテンシの処理が必要になるためです。多くのMCUではリアルタイムの制約条件を満たしつつ高いコンピューティング性能を達成することが困難なため、エンジニアは複数のプロセッサや外部アクセラレータに頼らざるを得ず、複雑化が進む原因になっています。
また、モバイル・ロボットはプロセッシング・ユニット、IMU、GNSSモジュール、モータ・コントローラ、ネットワーク・インターフェースの間で正確なコーディネーションが必要になるため、統合性についても考慮する必要があります。従来の設計では、このようなコンポーネントを手作業で統合して同期させる必要があり、開発時間の長期化と互換性が失われるリスクを招いていました。
同様に、信頼性の高い通信機能も重要です。予測可能で安定した動作を保証するために、VMUは最小限の遅延でセンサ・データとアクチュエータ・コマンドを中継する必要があります。しかし、多くのシステムはレガシー・プロトコルに依存しているか、CAN FDや車載イーサネットなどの堅牢で低遅延のネットワーク・ソリューションをサポートしていません。
さらに、開発者はリアルタイム制御に必要なミドルウェアとフレームワークを得るために、PX4、Zephyr RTOS、Cognipilotなどのオープンソース・エコシステムのソフトウェアに大きく依存しています。ただし、これをカスタム・ハードウェア構成と統合するには、多くの場合、膨大な開発作業が必要になります。
MR-VMU-RT1176でモバイル・ロボットの問題を解決
MR-VMU-RT 1176は、このような課題を一挙に解決できる単体のコンパクトなモジュール・ソリューションです。
MR-VMU-RT1176は、モバイル・ロボット向けに設計されたコンパクトで軽量な車両管理ユニット・ソリューションです。
処理能力
MR-VMU-RT1176は、モバイル・ロボットの厳しいコンピューティング・ニーズに対応できるよう設計されたi.MX RT1176クロスオーバーMCUを軸として構築されています。このMCUはデュアルコア・アーキテクチャを採用し、制御ループ、センサ・フュージョン、AI推論などのハイパフォーマンス・リアルタイム・タスクに対応するCortex-M7 (1 GHz) と、バックグラウンド処理を効率的に管理してプライマリ・コアの負担を軽減するCortex-M4 (400 MHz) を搭載しています。64 MBの外部フラッシュと2 MBのRAMを搭載し、ファームウェアの実行とリアルタイム・データ処理のための十分なメモリを確保しています。
MR-VMU-RT1176ブロック図
包括的なセンサ・スイート
MR-VMU-RT1176は、ロボット・システムにおける正確なモーション・トラッキングと環境認識を可能にする、包括的なセンサ・スイートを搭載しています。次のセンサが含まれます。
- 正確なモーション・センシングを実現するBMI088 6軸IMU
- 方向/方位の推定を可能にするBMM150磁力計とIST8310磁力計
- 高度と気圧を測定するデュアルBMP388気圧計
- モーション・トラッキングの冗長性と精度を高めるデュアルICM-42688 6軸IMU
このようなセンサのうち半分が内部に取り付けられたIMUボードに搭載されているため、将来のシステム更新の際に新しいセンサと簡単に交換できます。
コネクティビティとインターフェースのオプション
モータ、センサ、ネットワークの各モジュールをVMUに統合するには、柔軟な通信オプションが必要となります。MR-VMU-RT1176には次のインターフェースが搭載されます。
- 高速データ転送に対応するUSB-C 2.0コネクタとJST-GHピン・ヘッダ
- 外付け周辺機器を接続するための、複数のUART、I2C、SPIポート
- アクチュエータ、サーボ、モータの直接制御に対応する12個のPWM出力
- シグナル改善機能 (SIC) を備えたトリプルCAN FD
- 広帯域データ交換に対応する100Base-T1車載イーサネット
- リモコン用のSBUS対応レシーバとの互換性を実現するRC入力
以上のコネクタはDronecode規格に準拠しているため、MR-VMU-RT1176に接続するだけで使用できる多種多様な既製コンポーネントのエコシステムを利用することができます。
開発者エクスペリエンスとソフトウェア・エコシステム
MR-VMU-RT1176は、オープン・ソースのリアルタイム・オペレーティング・システムやロボット・フレームワークと簡単に統合することができます。たとえば、リアルタイムの組み込みアプリケーション向けに設計された軽量モジュラ・システムであるZephyr RTOSがサポートされます。このシステムは自律ロボット向けのCognipilotをサポートしており、Zephyrベースのオートパイロット・プラットフォームを構築できます。また、堅牢なリアルタイム処理で定評のあるPOSIX準拠OSであるNuttX RTOSや、UAVやモバイル・ロボット向けのフライト・コントロール・ソフトウェアとして広く普及しているPX4にも対応します。
特にPX4は、ミッション計画、GPSウェイポイント管理、テレメトリ、マッピングのための地上局ソフトウェアであるQGroundControlと組み合わせることができます。これはノートPC、Androidデバイス、カスタム・ハードウェアで実行でき、ほぼどのような場所からも包括的なシステム制御を実施できます。
導入方法
MR-VMU-RT1176へのZephyr RTOSの導入は、これがZephyrリポジトリのアップストリームでサポートされていることから、簡単に行うことができます。
- NXPのリポジトリから、事前構成済みファームウェアをダウンロードします。
- Zephyrビルド・システムを使用して、カスタム・アプリケーションをコンパイルしてフラッシュします。サポート機能がZephyrに完全に統合されているため、開発者は標準Zephyrオープン・ソースの指示に従い、ターゲット・プラットフォームとしてMR-VMU-RT1176を選択するだけで済みます。
- Cognipilotのフレームワークを利用して、オートパイロットや自律システムを開発します。
モバイル・ロボットの新たな未来
モバイル・ロボットは設計が難しい分野ですが、それもいつか解消されることになるでしょう。MR-VMU-RT1176は、高性能のプロセッシング機能、統合されたセンサ、広範なコネクティビティ・オプションをモジュール設計に組み込んだ、コンパクトでパワフルなソリューションです。事前構成済みのファームウェア、Zephyrのドキュメント、NXPの開発者リソースを用意しておけば、簡単に開発を始めることができます。
今すぐMR-VMU-RT 1176の製品ページを参照して、次世代のモバイル・ロボットの開発を始めましょう。