モバイル・ロボティクス業界は、センサやエレクトロニクスの技術の進化により急成長を遂げています。エンジニアが最新のテクノロジを取り入れるにつれて、モバイル・ロボティクスのエコシステムのあらゆる側面が進化しています。ここでは、プロセッシングや電力、センサ、通信に変化をもたらすいくつかの重要なトレンドについて詳しく見ていきます。
エッジ・プロセッシング
Arm®が20年前にCortex®-Mファミリをリリースし、その2年後に最初のマイクロコントローラが市場に出回りました。Arm Cortexベースのマイクロコントローラは、低消費電力での動作、高性能、画期的な新しいペリフェラルを実現する幅広い機能で業界を進歩させ続けています。
デュアル・コアArm Cortex-M33ベースのNXPの新しいMCX NシリーズMCU
NXPの最新の汎用MCUであるMCX Nシリーズは、モバイル・ロボティクスの最先端を行く製品です。これらのマイクロコントローラは、ニューラル・プロセッシング・ユニット (NPU) をマイクロコントローラ・レベルにまで引き上げ、機械学習 (ML) の処理を高速化します。eIQ® Neutron NPUは、CNN、RNN、TCN、Transformerネットワークなど幅広いタイプのニューラル・ネットワークをサポートし、業界の新たな可能性を切り拓きます。
eIQ Neutron NPUを含む幅広いパワフルなペリフェラルを搭載したNXPの新しいi.MX 9シリーズなどのマイクロプロセッサにより、エッジ・コンピューティングも継続的に進化しています。なお、自動車用および産業用のモバイル・ロボティクスにおいては、機能安全が主要な考慮事項の1つです。ロボット・システムは、機能安全 (FuSa) を中核的原理とするマイクロプロセッサが登場したことで、より安全に動作できるようになりました。
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パワー
窒化ガリウム (GaN) の商用化は、エレクトロニクス業界に大きな影響を与え、より高い性能と大幅に向上した効率を実現する能力によりパワー・エレクトロニクスに革命をもたらしました。
モバイル・ロボットのモータ・ドライバは、はるかに高い効率を備えながらも劇的に小型化できるようになり、バッテリー寿命の向上と熱管理要件の緩和につながりました。
GaNは、スイッチング電源のコンバータにも利点をもたらします。GaNデバイスのオン/オフを高速で切り替えることでパワー・コンバータの周波数を上げられるため、エンジニアはより小型で低コストのインダクタやキャパシタを利用できるようになります。
モータ・ドライバ開発キット
画期的な新しいバッテリー・ケミストリが市場に出回り、量産が開始されるようになりました。その電力密度に関しては最も優れたリチウム・ポリマ・バッテリーには及びませんが、それが大きな懸念点とならない場合には新しいバッテリー技術も有望です。ナトリウムイオン・バッテリーは、エネルギー密度では劣るものの、自然界に豊富に存在する金属を活用しています。リチウムは採取できる地域が限られており、コストや環境負荷も高くなります。一方で、ナトリウムの場合は海水などから容易に採取できます。ナトリウムイオン・バッテリーは、ナトリウム・フェライト (NaFeO2) などの化学物質を使用し、コバルトやニッケル、銅を必要としないため、より低コストであるとともに資源も豊富です。主要なバッテリー・メーカーは、ナトリウムイオン・バッテリーの生産能力を高めるために多額の投資を行っています。これによりバッテリーのコストが下がり、モバイル・ロボットのコストの低減につながると同時に、体積エネルギー密度の影響を受けにくい用途での駆動時間も向上することが見込まれます。
センサ
多くのモバイル・ロボティクスのプラットフォームは、ビジョン(視覚)に大きく依存しています。既述のようにNPUを搭載したマイクロコントローラやマイクロプロセッサは、リアルタイム推論や画像の分類を可能にし、ロボットによる周囲環境の認識を向上させます。
モバイル・ロボティクスとマシン・ビジョン
GaNデバイスでは驚異的な超高速パルスを実現できるため、LiDARを使用した高速かつ高解像度の3Dデプス・マッピングも可能になります。ロボットのナビゲーションは、SLAM(自己位置特定とマッピングの同時実行)アルゴリズムの進歩により、大きく飛躍する可能性を秘めています。ここでもエンジニアは機械学習の技術を3Dデータ環境に応用し、認識と意思決定の能力を向上させることができます。
ロボットの状況認識が向上することで、厳密に制御された環境以外での自律性と能力も向上します。
通信とコネクティビティ
通信とコネクティビティは、モバイル・ロボティクスの進歩において極めて重要な役割を果たします。最新のワイヤレス・テクノロジの発展により 、ロボットは他のデバイスやシステム、さらには人間ともシームレスに通信できるようになっています。Wi-Fi、Bluetooth、5Gネットワークを統合することで、リモート・コントロール、リアルタイムのデータ転送、Over-the-Airアップデートが可能になり、モバイル・ロボットの柔軟性と適応性が向上します。
低レイテンシで高帯域幅の5Gネットワークは、世界中で急速に普及しています。このテクノロジは、モバイル・ロボティクスの新たな可能性を切り拓きます。今やロボットは、クラウド・コンピューティングを活用して、リアルタイムの応答性を維持しながら複雑なデータ処理や意思決定など大量のリソースを必要とするタスクに対応することができます。
メッシュ・ネットワークとスワーム・ロボティクスは、複数のロボット間の連携に革命をもたらしています。アドホック・ネットワークを構築することで、ロボットが相互に通信して連携し、共通の目的を達成するために情報やタスクを共有できるようになります。この機能は、捜索と救助、環境モニタリング、大規模な物流など、さまざまなアプリケーションにおけるロボット群の展開を可能にします。
MQTTやCoAPなどのIoTプロトコルを採用することで、モバイル・ロボットと他のコネクテッド・デバイスやシステムとの統合がさらに容易になります。
未来への備え:モバイル・ロボティクスが画期的なイノベーションを先導
モバイル・ロボティクス業界は、エッジ・プロセッシング、パワー、センサ、および通信技術の進化により急成長を遂げています。マイクロコントローラやマイクロプロセッサへのニューラル・プロセッシング・ユニットの導入は、GaNデバイスや新しいバッテリー・ケミストリの登場と相まって、より効率的かつインテリジェントで自律的なモバイル・ロボットを実現しています。
また同時に、ビジョン・システムやSLAMアルゴリズム、ワイヤレス・コネクティビティの進歩により、ロボットの状況認識と連携機能が向上しています。業界を形作り続けるこれらのトレンドとともに、モバイル・ロボットは、ますます用途が広がり、適応性が高まり、私たちの生活のさまざまな側面に取り入れられることで、業界に革命をもたらし、私たちの生活や働き方を変えていくことが予想されます。