二輪/三輪車市場は、高い安全性、快適なライダー・エクスペリエンス、電動化、サステナビリティ、経済的な交通手段を求めるニーズの高まりを受け、劇的な技術革新が進みつつあります。
次世代型DCCにより安全性、スマート性能、コネクティビティに優れた二輪車が実現
近年、オートバイ、スクーター、モペッドの市場はエントリレベル・モデル、ハイエンド・モデル、さらに電動モデル (EV) を含めて世界的な成長を続けていますが、新しいライダーの嗜好に応えるために、従来型のインストルメント・クラスタからデジタル・コネクテッド・クラスタ (DCC) への移行が急速に進んでいます。
この市場で長らく主流を占めていたのはガソリン車でしたが、電動バイクや電動スクーターの普及が進むにつれて、DCCが電動二輪車にとって必須の機能となっています。最新のDCCには、堅牢なマルチコア処理能力、高度なグラフィックス機能、画像処理、AIテクノロジ、シームレスなBluetooth/Wi-Fiコネクティビティに加え、さまざまな安全機能やインフォテイメント機能も要求されます。
NXPはOEMとTier 1サプライヤを対象に、すぐに実装可能なDCCプラットフォーム、概念実証設計、包括的な半導体およびソフトウェアのポートフォリオを提供しており、二輪車デジタル・クラスタ市場をリードしています。今年の初めには、i.MX RT1170クロスオーバMCUを使用したエントリレベルDCCターンキー・ソリューションを発表し、デジタル・クラスタのさらなる革新への道を切り拓きました。
さらにNXPは先日、i.MX 95アプリケーション・プロセッサを使用する次世代DCCの概念実証設計をリリースしました。このDCCは、最新の自動車向けeコックピットに匹敵する先進的な装備や機能を備えており、二輪車向けクラスタの機能性とインテリジェンス性を高め、ライダーと歩行者の安全性をさらに高いレベルへと引き上げます。
NXPのハイエンド二輪車向けのAdvanced DCC設計のご紹介
NXPのi.MX 95プロセッサを使用するNXPの第2世代のAdvanced DCC設計によって、ミドルレンジからハイエンドまでの二輪車をターゲットとする車載グレードの機能をデジタル・クラスタに搭載することができます。Advanced DCCコンポーネントは、NXPのi.MX RT1170搭載DCCプラットフォームを補完するものであり、全体的なユーザー・エクスペリエンスと使いやすさを新たな水準に引き上げる機能を二輪/三輪車市場にもたらします。
Advanced DCCではi.MX 95プロセッサの卓越した性能と統合機能を活かしており、アプリケーション・プロセッシング向けのArm Cortex-A55コアを最大6個、リアルタイム性が求められるASIL-B準拠の機能安全ドメイン向けのArm Cortex-M7コアおよび-M33コア、没入感溢れるグラフィックスを実現するArm Mali GPU、さらにAI/MLアクセラレーション、4Kビジョン・プロセッシング、マルチカメラ機能を実現するNXP eIQ® Neutronニューラル・プロセッシング・ユニット (NPU) を搭載しています。
二輪車向けビジョンの豊富なユース・ケース
自動車に広く普及しているマルチカメラが二輪車にも導入されるようになり、ライダーと歩行者の安全性と視認性の改善に貢献しています。i.MX 95プロセッサのNeutron NPU機能とイメージ・シグナル・プロセッシング (ISP) 機能によってフロント・カメラとリア・カメラの入力を同時に処理することができ、次のような高度な安全機能が可能になります。
- 前方衝突警報 (FCW):車両の周囲の状況を継続的に分析し、衝突する危険性が高まった場合にライダーに警告を発します。
- ハイビーム・アシスト:道路上に他の車両を検知すると、ヘッドランプを自動的にロービームに切り替えます。
- ヘルメット検知およびドライバー監視システム (DMS):画像認識と組込みのインテリジェンス機能により、ライダーのヘルメット着用状態を検出します。こうしたシステムは、不注意運転やヘルメットの着用状況を監視して安全基準が遵守されていることを確認する役割を担うフリート管理者にとって特に有益です。
- 交通標識および路上障害物検知:カメラがリアルタイムで交通標識を検知して解析し、重要な情報をライダーに通知します。またカメラを利用して、死角検知 (BSD) 警告、ポットホール(路面陥没穴)検知、道路状況警告、車線変更支援 (LSA) の機能も実現できます。
こうした機能をDCCに組み込むことで、ライダーを過剰な情報で混乱させないようにしながら、二輪車のスマート化を進め、安全性を高めることができます。
インテリジェンスと音声コマンドの追加
最新の二輪車では、生成AIがユーザーの操作方法を大きく変えつつあります。ハンズフリーでの操作が重要視される二輪車の場合、AIを搭載したインテリジェントな音声操作システムがライダーの命令を理解してナビゲーションやインフォテイメントを制御し、さらにはスマート・ヘルメットを使用した通知も行います。
Neutron NPUを搭載したi.MX 95プロセッサは、直感的なユーザー操作や二輪車向けの会話型インターフェースを可能にする小規模言語モデルをサポートしています。ライダーは、ハンドルから手を離すことなく音声コマンドを発することで、DCC設定を変更したり、音声通話を行ったり、ルートをリアルタイムで更新したりできます。Advanced DCCに生成AIを導入し、二輪車のオーナーズ・マニュアルを学習させることによって、ライダーは音声で「後輪タイヤの推奨空気圧は?」や「現在のバッテリー残量で安全に目的地まで到達できるか?」といった簡単な質問をすることで、車両の運用や保守に関する重要な情報を得ることができます。
Android Projectionを表示中の二輪車向け先進的デジタル・コネクテッド・クラスタ。
安全な3D/2D分割ディスプレイを容易に作成
Advanced DCC設計の中核となるのが、ディスプレイ分割機能を備えた最先端のグラフィック機能です。分割されたディスプレイの一方では、重要な機能(速度、燃料レベル、警告インジケータなど)をArm M7によって2Dで描画し、もう一方ではインフォテイメント機能(ナビゲーション、メディア、通知)をArm A55コアにより高度な3Dグラフィックスとして表示します。このアプローチにより、安全性に関わる情報の表示を、安全性と無関係の機能から切り離すためのハイパーバイザが不要になるため、コストと複雑さが低減されます。ディスプレイ分割機能によって、重要な情報はシステムの起動直後から表示され、ナビゲーションやメディアを表示するOSがクラッシュしたりリセットされたりしても、ライダーに対して継続的に表示されます。
このディスプレイ分割のアプローチでは、二輪車のDCC設計における限られた画面スペースを考慮してユーザー・インターフェースを最適化するため、ライダーは余計な情報に気を取られることなく重要なデータを安全に読み取ることができます。i.MX 95プロセッサの機能として、スマートフォンをWi-Fi経由でディスプレイに接続することで二輪車でもAndroid AutoやApple CarPlayを使用できるため、ライダーのユーザー・エクスペリエンスが充実します。スマートフォンのほぼすべてのアプリをディスプレイに表示できるため、安全性、快適性、使いやすさが向上します。
i.MX 95プロセッサはISO 26262 ASIL-B準拠の車載グレード設計に対応し、デジタル・クラスタに機能安全をもたらします。このプロセッサは、音声アラート、デジタル・クラスタ・ライト、マルチカメラ・ディスプレイなど、車載OEMが定める高信頼性基準を満たした安全に不可欠な機能を二輪車向けにサポートします。
NXPでは、i.MX 95 SafeAssureプロセッサを補完し、お客様の製品開発を迅速化できるよう、カスタマイズ対応のASIL-B準拠車載ソフトウェア・コンポーネント (SAFC) を提供しています。安全性に関わるパーティションでは安全性チェックと分離を実施でき、仮想ソフトウェア・ドライバが安全性と無関係なパーティションからディスプレイ・コントローラへのリモート・アクセスをサポートします。
NXPのi.MX 95アプリケーション・プロセッサ。
ヘルメット間通信を実現
コネクテッド二輪車の増加に合わせて、ヘルメット間通信が人気の機能となってきました。この機能ではWi-FiやBluetoothなどの近距離無線通信プロトコルが使用されグループで走行するライダーが常に会話できるようになるため、意思疎通が円滑化され、安全性も高まります。
ヘルメット通信機能はAdvanced DCCシステムに統合され、i.MX 95プラットフォームの処理能力と、NXPのAW693ワイヤレスSoCのデュアルバンド(Wi-Fi 6/6EおよびBluetooth 5.3)コネクティビティを利用することで接続を管理します。この機能はハンズフリー通話とBluetoothオーディオもサポートしています。NXPの音声インテリジェント・テクノロジ (VIT) とBluetooth音声認識アクティベーション (BVRA) によって、ヘルメット間通信の音声の調整がさらに簡単になります。
Advanced DCCはエントリレベルのDCCと同様に、二輪車の位置を安全に追跡して発見するためのコネクティビティを選択できます。Bluetooth Low Energy、CAN、セキュア・エンクレーブを統合したNXPのKW45 MCUを使用した「バイクを探す」機能やキー検知機能を実装することで、ライダーはバイクやキーを短時間で探せるようになります。
IMUベースの転倒検出機能の実装
二輪車の安全性を大きく進歩させる機能が、転倒や事故を検出する慣性計測装置 (IMU) です。IMUセンサは動きや向きの変化を計測し、車両の異常な傾斜や転倒を検知したときに緊急アラートをトリガします。二輪車が転倒したときに、Advanced DCCがこの信号を統合して処理し、緊急連絡先や救急サービスに自動的にアラートを送信します。これにより、オートバイやスクーターのライダーのための安全エコシステム全体が強化されます。
二輪車向けDCCのロードマップ。
このロードマップを詳しくご覧になりたい場合は、こちらからダウンロードしてください。
次世代のDCCへの道のり
二輪車向けデジタル・クラスタは、今後もNXPの新製品がリリースされるたびに進化を続けていくでしょう。NXPは引き続き製品ポートフォリオを拡充し、OEMおよびTier 1サプライヤのニーズに応えて高度なビジョン機能、音声機能、グラフィックス、生成AI機能、コネクティビティ、アクセス機能、安全機能の最適な選択肢を提供するとともに、直感的に扱える安全かつ爽快なライディング・エクスペリエンスを実現します。
i.MX 95プロセッサを搭載するNXPのAdvanced DCCは、拡張可能なパフォーマンス、機能、柔軟性によってこの変革を推進し、製造エコシステムを強化して、次世代型二輪車の実現に向けた進化をリードしていきます。
NXPのAdvanced DCCの概念実証、i.MX 95プロセッサ・ファミリなど、NXPが提供する二輪車ソリューションの詳細については、NXPの営業所または販売代理店までお問い合わせください。