臨床用ベンチトップ遠心分離機は、臨床診断実験室で欠かせない機器として活用されています。遠心分離機は、産業分野や医療分野の他の多くのテクノロジと同様に、人々の安全と健康を維持するために必要な機器の中で、目立たないながらも重要な役割を果たしているケースが多くあります。
米国ペンシルベニア州中心部を拠点とするDrucker Diagnosticsは、臨床用ベンチトップ遠心分離機の設計と製造の分野におけるトップ企業です。世界中で毎日のように、数えきれないほどの血液サンプルがルーチン検査や血液バンク、簡易検査 (STAT) を目的としてDrucker Diagnostics遠心分離機で処理されています。これまで血液検査を受けたことがあるのなら、その血液はおそらくDrucker Diagnosticsの遠心分離機にかけられています。
Drucker Diagnosticの遠心分離機は、診療所、病院、救急診療所、血液バンクで使われています。さらに、Drucker Diagnostics遠心分離機は、人々の最愛のペットたちの健康と幸せを維持するためにも利用されています。
Drucker diagnosticsの動物病院向けTruebond遠心分離機
最新の遠心分離機のエンジニアリング
遠心分離機の動作原理は簡単明瞭です。遠心分離機内の専用スロットにサンプルを挿入します。このスロットは一般に標準的なサンプル収集チューブに合わせて設計されています。このサンプルを制御された速度で一定時間回転させます。この回転処理により、サンプルの成分が密度に応じて、回転で生じる力によって物理的に分離されます。たとえば、血漿や血清を赤血球、白血球、血小板などの他の血液成分から分離することができます。
DruckerのTrueBond遠心分離機
遠心分離機の中核となるテクノロジが、電気モータとパワー・エレクトロニクスです。モータの物理的なサイズと定格、およびパワー・コントロール・エレクトロニクスの性能は、遠心分離機のモデルによって異なります。用途によっては、さらに高い速度(回転数)や、重量の大きなローター・アッセンブリに対応できる能力が必要となります。
遠心分離機の場合、「1台ですべての用途に対応できる」製品はほぼ見られません。用途によって回転数とトルクの要件が異なるため、専門的な用途に応じて複数のモデルが用意されているのが一般的です。一般的な遠心分離機の内部には、あらゆる種類の電気モータ技術が使用されています。採用されるモータ技術は、その用途の要件に応じて、同期ACモータからブラシレス直流 (BLDC) モータまで多岐にわたります。
制御系統では、遠心分離機の回転サイクルをすべての面から制御する必要があります。これには、速度の制御、ローターの偏りや過度の振動といった動作上の問題の検出、電気的障害への対応、安全性、オペレータ・インターフェースが含まれます。
8ビットのレガシー・マイクロコントローラから、独自アーキテクチャに基づいた専用の「オールインワン」ICまで、さまざまな電子部品が使われているのが一般的です。一見すると、遠心分離機の設計は簡単そうに感じられるかもしれません。しかし、用途に応じた多種多様な要件を満たす、柔軟な制御システムを開発するには、システム設計上の多くの困難が伴うことがあります。
エンジニアは、柔軟なアプローチで遠心分離機の設計に取り組み、さまざまな機能、コスト、信頼性の要件を満たす必要があります。特殊なICを使用すると、サプライチェーンが逼迫した場合に最終製品の安定供給を維持できるよう設計を適応させることが非常に困難になる可能性があります。
NXPのLPC865 MCUを使用したモジュール化とコスト最適化
LPC865ファミリは、低消費電力でピン数が少なくスペース効率に優れたLPC800シリーズに新たに加えられた製品群です。LPC865はモータ制御アプリケーションを主なターゲットとしており、2つのパワフルなFlex Timer Modules (FTM)、高速ADコンバータ (ADC)、アナログ・コンパレータ (ACMP) を統合しています。
Arm® Cortex®-M0+ LPC865とモータ制御ペリフェラル
図中のペリフェラルは、最も一般的なモータ制御方式をすべて実装できるよう、専用のペリフェラル・インターコネクトを介して協調動作するように設計されています。
LPC865モータ制御MCUには、単純なブラシレスDC機器から永久磁石同期機器 (PMSM) 向けのフィールド指向制御まで、幅広いユース・ケースがあります。LQFP-64パッケージ1000個での単価が1.07 USDに抑えられたLPC865は、8ビットおよび16ビットのレガシー製品に代わるものです。Drucker Diagnostics製品の場合、現行のMCUの価格からの減額が6倍になります。
その他にも、最新の低価格32ビットCortex-M0+ MCUに移行することで以下のメリットが得られます。
- パワフルなCPUコアによりコード開発が容易
- 複雑なモータ制御アルゴリズムに対応できる拡張性
- 移植可能なコードを維持して多様なCPUアーキテクチャに対応可能
- 普遍的なツールチェーンのサポート。開発ワークフローで、非標準的なCPUアーキテクチャに対応する専用のツールチェーンが不要になります。開発者は、GCCなどのオープンソース・ツールとMCUXpressoなどの無料開発ツールを使用できます
- さまざまなMCU製品で、NXPのMCU-LinkやSegger J-linkなどの幅広いデバッグ・ツールを使用可能
LPC865の他の2つの特徴、つまり設計を簡素化できる点と、BOMコストを最適化できる点は、スイッチ・マトリックス (SWM) とシンプルなICパッケージによって実現されています。
柔軟なピン配置を実現するLPC865のSWM(LPC865ユーザー・マニュアルUM11607 Rev. 3、ページ107の図12より抜粋) UM11607をダウンロードすると、詳細がご覧いただけます。
SWMを使用することで、ペリフェラルの多くを任意のピンにルーティングでき、プリント基板 (PCB) のレイアウトが簡素化されます。これは、低コストのPCB技術を採用した低コスト・アプリケーションで役立ちます。
LPC865は、10 mm²のLQFP64パッケージ、7 mm²のHVQFN48パッケージ、5 mm²のHVQFN32パッケージで提供されます。
LPC865のパッケージとピン配置の展開(アプリケーション・ノートAN13803 Rev 0、ページ8の図13より抜粋) AN13803をダウンロードすると、詳細がご覧いただけます。
必要なIOが最小限の場合には、小型の5 mm² HVQFN32パッケージを使用できます。LQFP64パッケージは多くのIOを備え、ボタン、LCD、ソレノイド・ドライバなどの電気機械制御装置用に追加のGPIOピンを必要とする設計に対応できます。
Drucker Diagnosticsによる、LPC865を使用したBLDCモータ制御パイロット・デザイン
Drucker Diagnosticsでは、最新の設計アーキテクチャへと向かう第一歩として、LPC865を評価するためのパイロット・デザインを設計しました。
このパイロット・デザインは、同期ACモータと8ビットのレガシーMCUを中心とした既存設計をBLDCに置き換えることを目的としたものです。同時に、モジュール化設計とコスト・パリティの達成も目標としています。このパイロット・デザインには、NXPのLPC865 MCU、NexperiaのBUK9Y43-60E三相ブリッジ用MOSFETS、On SemiconductorのNCD83591MNTXGゲート・ドライバが使用されています。
Drucker Diagnosticsによる、LPC865を使用したBLDCパイロット・デザイン・アーキテクチャ
このパイロット・デザインの意図の1つとして、パワー・エレクトロニクス・アーキテクチャの俊敏性を高めるために、パワー・エレクトロニクスの機能を分割しています。LPC865とゲート・ドライバの全般的な特性により、制御トポロジにおいて非常に高い俊敏性が得られます。同じアーキテクチャを使用しながら、ルックアップ・テーブル・ベースのBLDC整流方式からセンサレス・アプローチに切り替えることが可能です。
LPC865には多くのIOを備えており、モータ制御機能に加えて以下の機能を実現できます。
- 個別のボタンおよびLEDへの配線
- ユーザー・インターフェース用のパラレルLCDおよびシリアルLCDへの接続
- I²C/I3Cインターフェースと加速度センサを使用した、ロータの偏り測定
- 外部コマンドと制御のためのUART
追加のIOが利用可能であるため、8ビットのレガシー・デザインで一般に使用される外付けのIOエクスパンダが不要となり、BOMコストの削減につながります。
多くのDrucker Diagnostics製品には、さまざまなユーザー・インターフェースとIOのニーズに対応する各種モデルが用意されています。動作状態を報告するためのLCDが搭載されている製品もあれば、シンプルなLED/プッシュボタンのユーザー・インターフェースが搭載されている製品もあります。また、安全機構に使用されるソレノイド部品など、製品の補助的機能を制御する要件にも対応する必要があります。LPC865は、必要なすべての機能を1つのチップで実現できる、適切な数のIOを備えているため、設計の移行が可能になり、BOMコストを削減できます。
Drucker Diagnosticsによる、LPC865ベースのBLDCのパイロット・プロトタイプ
「NXPは、クラス最高レベルのテクノロジ・ソリューションを費用対効果の高い価格帯でDrucker Diagnosticsに提供しています。これにより、弊社は今後も業界のリーダーとして存在感を発揮し、コスト競争力の高い製品ラインナップで人々の安全や健康、生産性の向上に貢献していくことになるでしょう。」
Tom Mallison氏 - Drucker Diagnostics社長
機能性とコネクティビティをさらに高めるオプション
LPC865は、多くの基礎的なモータ制御アプリケーションに最適なソリューションです。
低価格のシンプルなBLDCモータに最適なソリューションですが、PMSM機器のフィールド指向制御を必要とする高度なアプリケーションにも対応できるだけの能力を備えています。
LPC865を使用して高度なモータ制御トポロジを実現する方法に関する詳細なアプリケーション・ノートを提供しています。以下をご覧ください。
LPC865は、以下のようなシンプルなI/O要件のモータ制御アプリケーションで優れた性能を発揮します。
- ボタンを使用する手動ユーザー・コントロール入力/HMI
- I3CまたはI²Cを使用したモータ制御/IOブリッジ・コプロセッサ
- Profinet、Modbus、BACNETなどの標準化されたプロトコルを使用する分散型インダストリアル・グレードRS485ネットワークのノード
- RS-232などのシンプルなUARTベース・インターフェースを介したポイント・ツー・ポイント接続
一部のモータ制御オプションでは、追加のフラッシュ・スペース、プロセッシング能力、接続オプション(USBなど)が必要になる場合があります。最近発売されたNXP MCX Aシリーズは、シンプルさと低BOMコストを維持するための選択肢となります。MCX A153は、フラッシュとRAMの容量を倍増し、USBフルスピード・インターフェースと96 MHz Cortex-M33コアを備えています。モータ制御能力とパッケージの種類は同じですので、機能を追加する場合に適した選択肢です。
2024年のDrucker DiagnosticsとNXPの展望
Drucker DiagnosticsはNXPの協力を得て、今後本格的にLPC865によるモータ制御を推進する計画です。2024年も引き続き、遠心分離機の制御アーキテクチャの最新化とコスト目標の達成に向けた取り組みが進められます。Drucker Diagnosticsについて詳しくは、こちらをご覧ください。また、LPC865 MCUでは、モータ制御能力を備えた最新のArm Cortex-M0+ ベースのMCUによって、より少ないリソースでより多くの成果を上げる方法をご紹介しています。