近年、さまざまな業界にわたって、イノベーションの推進に人工知能(Artificial intelligence:AI)が重要な役割を果たしています。 ビジョンと音声のテクノロジの進歩により、大規模なインテリジェント・モデルの開発が継続的に促進され、新たなユース・ケースとユーザー・エクスペリエンスの向上がもたらされています。
また、マイクロコントローラやマイクロプロセッサを搭載したエッジ・デバイス上で実行できるAIの需要も高まっており、低遅延、省エネ、データ・プライバシーの強化などのメリットがあります。 それらの用途の中でも、時系列データは、一貫して均等な時間間隔で記録された一連のデータ・ポイントであり、異常検出、分類、回帰の3種類の主要タスクを開発するためによく使用されます。
時系列データを必要とするアプリケーション
異常検出は、その名の通り、想定外の動作を特定し、時系列データに基づいて正常な動作からの逸脱を検知するように設計されており、これによりアラートや緊急停止をトリガして損害を最小限に抑えることができます。
分類は、モデルをトレーニングして入力データを認識し、その中のパターンを学習することでカテゴリ分けを行います。 これには、トレーニング中にデータ・ポイントにラベルを割り当て、モデルで情報に基づいた判断を行えるようにすることも含まれます。 これらのモデルは、いったん確立されると、データ内で観察されたパターンを効果的に識別し、新しい入力を分類できるようになります。
回帰タスクは、過去のバッテリ放電データに基づくバッテリ寿命予測や、モーターの予知保全など、データから連続的な値を予測することを目的としています。 温度と振動のセンサ・データを使用すれば、時間の経過に伴う潜在的な故障の可能性を予測できます。 機械学習やAI技術の発展から恩恵を受けるユース・ケースは他にも多くありますが、時系列は最も複雑で動的なデータの種類の1つです。
エッジでのAIをさらに進化させるために、NXPはAIおよび機械学習開発ソフトウェアであるeIQファミリの新しいツールとして、eIQ® Time Series Studio (eIQ TSS) を導入します。eIQ TSSは、自動化された機械学習ワークフローを備え、MCXシリーズのMCUやi.MX RTシリーズのクロスオーバーMCUなど、さまざまなマイクロコントローラ (MCU) クラスのデバイスで時系列ベースの機械学習モデルの開発と展開を効率化できます。
Time Series Studioは、電圧、電流、温度、振動、圧力、音、タイム・オブ・フライト(Time of Flight:ToF)など幅広いセンサ入力信号をサポートするだけでなく、それらの信号を組み合わせてマルチモーダルなセンサ・フュージョンにも対応できます。 自動機械学習機能が備わっているため、開発者は生の時系列データから意味のあるインサイトを抽出し、マイクロコントローラの精度、RAM、ストレージの基準を満たすようにカスタマイズされたAIモデルを短時間で構築することが可能になります。 このツールは包括的な開発環境として、データのキュレーション、可視化、解析、モデルの自動生成、最適化、エミュレーション、展開などに利用できます。
NXPのソリューションは将来のAIアプリケーションの推進にどのように役立つのでしょうか。 NXPの人工知能のページで詳細をご覧ください。
eIQ® Time Series Studioのステップ・バイ・ステップ・ワークフロー
サンプル・アプリケーション
開発をすぐに開始できるように、異常検出、分類、回帰という3つの主要なタスクに対してサンプル・アプリケーションとデータセットが用意されています。 各アプリケーションはツール内に詳細と使用手順が記載され、開発ワークフローの出発点として役立ちます。
eIQ Time Series Studioのユーザー・インターフェースのホームページ。
データ入力
データをクリーンで整理された状態に保ち、整合性を確保するには、データのキュレーションが重要です。 例えば、サンプリング・レートを変化させながら、屋外環境の複数のセンサからデータを収集する(環境要因によりデータに多くのノイズが含まれる可能性がある)場合には、これらのデータを時間的な関連性を保ちながら整合および同期させることが、モデルの正確なパフォーマンスにとって重要です。
開発者は、独自のカスタム時系列データをインポートする際にチャネル数とクラスを定義できます。また、Time Series Studioには、生データ、時間、統計、スペクトルなど、さまざまなデータ表示オプションも用意されています。
eIQ TSSユーザー・インターフェース内のデータセット入力ページ。
トレーニングと最適化
パラメータ調整やモデル検索、アルゴリズム検索のために、従来の手動の反復開発プロセスに代わって自動化された機械学習を活用することで、モデルのトレーニングと最適化が容易になります。 ワンクリックで複数のモデルを生成し、精度またはフラッシュ/RAMサイズで並べ替えることができます。 それにより、モデルのトレーニングと最適化にかかる時間が数週間から数時間に短縮されます。
eIQ TSSユーザー・インターフェース内のトレーニング・ページ。
エミュレーション
トレーニングの完了後は、さまざまな未知のテスト・データセットを使用して、仮想エッジ環境内でモデルをテストし、確認できます。 それにより、対象のデバイス環境が複製され、開発者は実際のハードウェアに展開する前にモデルのパフォーマンスと精度を検証できます。
eIQ TSSユーザー・インターフェース内のエミュレーション・ページ。
展開
選択したモデルをコンパイルした後は、アプリケーション用のカスタム・ライブラリを生成できます。 ライブラリの使用は簡単であり、2つのAPI呼び出しのみで構成されます。モデルを初期化するためのAPI呼び出しと、推論を実行するためのAPI呼び出しです。 MCUXpressoおよびCode Warrior IDEと互換性のあるライブラリを生成できます。
eIQ TSSユーザー・インターフェース内の展開ページ。
データ・インテリジェンス
ユーザーは、多くの場合、それまでの知識に基づいて時系列データセットをインポートします。 ただし、包括的なデータ解析を行わないと、トレーニングに使用されるデータの有効性が低下する可能性があります。 例えば、サンプリング周波数がアプリケーションの要件を超えたり、分類タスクでクラスごとのトレーニング・データの量が不均衡になったりする場合があります。
これらの課題に対処するために、データ・インテリジェンス・ユーティリティを使用して、データセットのバランスや個々のデータ・チャネルの重要性を評価できます。 このユーティリティは、データの不均衡を検出するだけでなく、リソースの最適化のために削除できる可能性のある冗長チャネルも特定します。 また、最適なサンプリング周波数とウィンドウ・サイズが推奨されるため、ユーザーはデータセットを絞り込んで品質を向上させ、より正確な解析結果を得ることができます。
eIQ TSSユーザー・インターフェース内のデータ・インテリジェンス・ページ。
この例では、以下のことを特定できます。
- 12チャネルのうち2チャネルは必要でない可能性があり、削除してリソースを節約できる
- 生の連続データのサンプル・レートが高すぎる可能性があり、1/16に減らすことが推奨される
インテリジェントな解析に基づいて、ユーザーは将来のトレーニングに使用するデータセットに変更を加え、より良い結果を期待できます。
Time Series Studioは、シームレスなエンド・ツー・エンドのソリューションを提供し、開発者、パートナー、お客様が各自のデータを使用してAIソリューションを開発するための参入障壁を下げ、必要な時間を短縮するよう設計されています。 この新しいツールに、NXPの幅広いMCUおよびアプリケーション・プロセッサ製品と、AIワークロードをさらに加速するNPUを組み合わせることで、あらゆる規模の組織がAIの力を活用して革新を進め、複雑な問題を解決できるようになることが期待されます。
eIQ Time Series Studioは、バージョン1.13.1以降のeIQツールキットに含まれています。